最終章_最終日-5
町にある風車が回転を止めた。
ただ風の音がする。
そして、風車のブレードは角度を深くして、回転を始める。
今までと反対方向に。
風を起こすために。
大きな扇風機のように。
「すごい、力が動く感じがする」
紅野明日香の声がする。
「これなら、いける気がする」
今までと逆回転の風車の回転は加速していく。
見たことの無いような速度で回る。
ぐるぐる、ぐるぐる。
やがて、風が起こった。
その風は、回転が強くなるのと比例して、徐々に強くなっていく。
風車に、バチバチと電流が走る。摩擦で火花が散る。
「力が、ぶつかり合う感じがする」
海から吹く風。
大地は、相変わらず微震を保つ。
風が暴れる。
その風たちに、色がついているようにも見えた。
まるで、風車が高らかに歌っているようにも聴こえた。
それは町が生きているようだった。
いや、少し違う。生まれ変わろうとするようだった。
丈夫なはずの建物は次々と崩れ落ちていく。
風に吹き飛ばされて瓦礫の山を築く。
風車も何本か折れてしまった。
そこにあることを疑わなかった山も崩れていく。
それは、一見すれば地獄の光景のようにも見えた。
しかし、それでも、歓喜。
祝福。
風に意思があるとするなら、そういう喜び溢れるものに感じられた。
まるで、祭りの中に居るような……。
坂の中腹には志夏の姿。目を閉じて、常人なら吹き飛ばされて巻き上げられるほどの規格外の強風に吹かれながら、静かに佇んでいる。風をコントロールしようとしているのだろうか。
まとまった強い風は、とても恐ろしいものだ。建物なんてのも丸ごと簡単に飛ばす。寮が地面から引き剥がされて、形を失った。この強い風は、コンクリートすらものともしないらしい。
町を渦巻いた風は、風車に誘導されて、湖の向こう、大地の裂け目へと集中。
海からの風と衝突する。
爆発的なエネルギーによって、地面が大きく揺れる。
揺れ続ける。
「それじゃ……あらためていくわよ」
共有する集合意識の中で、紅野明日香が呟く。
さっきは、号令かけたのに何も起きなかったからな。仕切りなおしだ。
「おう」と俺。
「うん」頷くまつり。
「ええ」那美音。
「おー」アルファが拳を突き上げる。
「ん」優しく頷いた紗夜子。
「うむにゅん」おりえ。
「は、はい」緊張した面持ちのみどり。
「「ゴーゴー!」」
これは、利奈と本子さん。
俺たちはそれぞれに返事をした。
「……あ、そうだ。この町の正式な名前って、何ていうの?」
「さぁ……」
誰も、知らないようだった。
「わかんないなら……まぁいいか。適当につけるよ!」
そして、明日香は立ち上がり、天井に向けて手を伸ばした後、前方をびしっと指差した。
「アスカ島! 発進!」
「――ってお前の名前かよ!」
「え? ダメかな……」
「後で話し合いの余地アリね」
那美音が、呆れたように、でも嬉しそうに、そう言った。