表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
323/579

最終章_最終日-3

 今度は、皆で探検した森。廃屋があった北の森に来てみた。


 もちろん、体は行けないので、意識だけで。


 ここには那美音が居た。


「ねぇ、アスカちゃん」

 上空に向かって、那美音は言った。


「何?」

 明日香が答える。


「皆、物資の回収を終えたみたいよ」


「そう。こっちも、そろそろ終わる」


「ついに、目覚めるのね、ソラブネ」


「うん……あっ、那美音さんも、利奈っちのところに避難して。そこは危ないわ」


「わかったわ」

 答えて、頷き、走り出す。


 その時……止んでいた風が、また吹き始めた。


 そうだ、志夏が風を止めていてくれたんだっけ……。





 次に、俺の意識は上空に向いた。

 そこには志夏の姿。


 人の姿でありながら、空を飛んでいる神様を自称する不思議少女。


 いまひとつキャラが掴めない風のような女の子。


 上空、風に吹かれて佇んでいた。


 大きく息を吸って、吐いた。


 翻って、町を見下ろす。


 優しい瞳で。


「志夏」


 俺は彼女に話しかけた。


「長い長い、旅だった」


 遠く、空を見上げて、彼女はそう言った。


「旅……?」


 そして、語り出す。


「私の目には、地上風景しか映し出されない。


 でも今、確かに目覚めを感じている。


 声がする。


 この町が、目覚める。


 町の声がする。


 町が一つになって、一つの目的に向かって動いている。


 未来が……見える気がする。


 閉ざされていた未来への門が、今、開く。


 身動きできない運命にあって、それを打開することが、どうしてもできなかった。


 ただ、世界を繰り返す中で、出会いと別れと、滅びと再生を繰り返してきた」


「滅び……再生……? 何のことだ……?」


 俺は訊いたが、


「隔離された世界で、彼らは生きた」


 志夏は俺を無視して続ける。


「どうして? そんなの、簡単なこと。少しだけ、ずれていたから……。


 普通とか、常識とか、そういうものを失って……。


 あるいは最初から持たずに……。


 それは、罪……らしい。


 だから、ここに、来た。


 滅ぼうとしていた、この町に……。


 そこに――彼女が来た……」


「彼女……っていうと……紅野明日香か……」

 こくりと頷く志夏。


「抵抗しなければならない。誰かによって決められた運命には」


「運命……」


「――とまぁ、そういうことなんだけど」


「ん? どういうことなんだ……?」


 さっぱりだ。


「まぁ、細かいことはどうでも良いわ。この町がこの町として、『生きていく』ためには、この場所を離れる必要がある。そのことだけ、わかれば良いわ。今まで、それができなかった。ようやく、未来への可能性に辿り着いた。全ては……これから始まるんだから」


 言って、志夏は微笑んだ。


 その時だった。


「――準備、完了!」


 久々に、本当に久々に、明日香の心から元気な叫び声が響いたのは。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ