最終章_最終日-3
今度は、皆で探検した森。廃屋があった北の森に来てみた。
もちろん、体は行けないので、意識だけで。
ここには那美音が居た。
「ねぇ、アスカちゃん」
上空に向かって、那美音は言った。
「何?」
明日香が答える。
「皆、物資の回収を終えたみたいよ」
「そう。こっちも、そろそろ終わる」
「ついに、目覚めるのね、ソラブネ」
「うん……あっ、那美音さんも、利奈っちのところに避難して。そこは危ないわ」
「わかったわ」
答えて、頷き、走り出す。
その時……止んでいた風が、また吹き始めた。
そうだ、志夏が風を止めていてくれたんだっけ……。
次に、俺の意識は上空に向いた。
そこには志夏の姿。
人の姿でありながら、空を飛んでいる神様を自称する不思議少女。
いまひとつキャラが掴めない風のような女の子。
上空、風に吹かれて佇んでいた。
大きく息を吸って、吐いた。
翻って、町を見下ろす。
優しい瞳で。
「志夏」
俺は彼女に話しかけた。
「長い長い、旅だった」
遠く、空を見上げて、彼女はそう言った。
「旅……?」
そして、語り出す。
「私の目には、地上風景しか映し出されない。
でも今、確かに目覚めを感じている。
声がする。
この町が、目覚める。
町の声がする。
町が一つになって、一つの目的に向かって動いている。
未来が……見える気がする。
閉ざされていた未来への門が、今、開く。
身動きできない運命にあって、それを打開することが、どうしてもできなかった。
ただ、世界を繰り返す中で、出会いと別れと、滅びと再生を繰り返してきた」
「滅び……再生……? 何のことだ……?」
俺は訊いたが、
「隔離された世界で、彼らは生きた」
志夏は俺を無視して続ける。
「どうして? そんなの、簡単なこと。少しだけ、ずれていたから……。
普通とか、常識とか、そういうものを失って……。
あるいは最初から持たずに……。
それは、罪……らしい。
だから、ここに、来た。
滅ぼうとしていた、この町に……。
そこに――彼女が来た……」
「彼女……っていうと……紅野明日香か……」
こくりと頷く志夏。
「抵抗しなければならない。誰かによって決められた運命には」
「運命……」
「――とまぁ、そういうことなんだけど」
「ん? どういうことなんだ……?」
さっぱりだ。
「まぁ、細かいことはどうでも良いわ。この町がこの町として、『生きていく』ためには、この場所を離れる必要がある。そのことだけ、わかれば良いわ。今まで、それができなかった。ようやく、未来への可能性に辿り着いた。全ては……これから始まるんだから」
言って、志夏は微笑んだ。
その時だった。
「――準備、完了!」
久々に、本当に久々に、明日香の心から元気な叫び声が響いたのは。