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最終章_6-8

 手を繋いでしばらく歩き、廃屋が見えた。


 不自然にいきなり女の子と仲良くなってしまったが、一体何なんだ、この展開は?


 しかもよりによって紅野明日香?


 こんな、自分では無意識のうちにふざけたオカルト話の中心になっている女の子に好かれるとは……何だか、この先、良い予感がしない……。


「ねぇねぇ達矢っ。見て、廃屋だよ」


 明日香は空の手で前方を指差した。


「ああ、見えてるよ」


 遠目から見ても、ボロボロだとわかる。


「行ってみよっ」


 言って、駆け出した。


 俺も明日香に合わせて走る。


 こいつ、何だか、初めて仲の良い友達ができた時の子供みたいだな。ちょっと、小学校時代を思い出した。


 雑木林の中のアスファルトを駆け、その屋敷の庭だったであろう場所に生えている雑草たちを抜けて、廃屋の玄関前に着いた。


 那美音と利奈っちとアルファが居た。


「待ってたわよ、二人とも」


 那美音は笑いかけてきた。


「って……何か、手……繋いでる……」

 利奈っちは驚いた表情。


「なかよしですね」

 本子さんはいつものようにフワフワ。


「いや、これは……明日香が一方的に……」


「けっこん? けっこん?」

 アルファたん、やめてくれ……。


 しかし、こんなに(はや)し立てられているというのに、紅野明日香は手を離さない。それどころか、今度はするっと腕を組んできた。


 ……何なんだ、一体。


「どう? うれしい? 女の子と腕組みできて」


 何故か全然ドキドキしない。


 はっきり言って不気味だ。あと胸が小さい。


「達矢くん。今思ってること、アスカちゃんに伝えていい?」


「やめてください……」


 肘が曲がってはいけない方向に曲がる気がする……。


 と、その時、


(ところで皆)


 那美音さんの思念波がごくごく小さな声で頭に響いた。何だろうか。


(なるべく反応を示さないように、静かに聴いてね)


 みな、無言で耳を傾ける。いや、聴覚とか関係なく響くわけだから、耳を傾けるという表現はどうなんだろうか。心を傾けるとかになるのかな。


(今、あたしたちは、絶体絶命の大ピンチです)


 何だ? 何を言ってるんだ……?


(今の心情を包み隠さず吐露(とろ)すると……ちぃっ、尾行されたか! あの時達矢くんとアスカちゃんが転落さえしなければ! といったところ)


 尾行されてピンチ、ということはつまり……。


 ――敵兵か?


(その通り!)


 正解したくないことに、正解してしまったらしい。


(敵の数は、三人。幸いなことに、相手は銃等の飛び道具を持っていない、ただの雑兵。持ってるのはせいぜいナイフくらい。そして戦いの基本は先制攻撃……というわけで、こちらから仕掛けるよ)


「どうやって?」


 軽率にも、アルファが訊いた。


 怪しいところを見せてはいけないというのに……。


「え? 何が?」


 那美音は言った。何とか誤魔化すつもりのようだ。


(こら、アルちゃん。軽率な言動は慎むように!)


「あぁ、ごめん」


(まぁ、とにかく、敵は、ちょうどあたしの背後に居るわ)


 今、俺と那美音は向き合っているわけだから、ちょうど、視界にある草むらの向こうに敵兵が居るのか。


(距離は二十五から三十メートルあたり。あたしが振り返ったら、一斉に銃を構えて)


 ――悪い、那美音。俺と明日香、銃落とした。


(はぁ……使えない子たち……)


 申し訳ない……。


 だが、無いものは無いのだ。役に立てないのは悔しいが。


(じゃあ、下がってて。あたしと利奈っちで対応するから)


「わたしもっ?」


 利奈は驚いてた。


「当り前でしょう」


「わ、わかった」


 おずおずとした様子で答えた利奈っち。


 そして、黒くて強そうな小銃を手に取った。


 いつでも発砲できるように。


 おいおい……先制攻撃する意思丸出しじゃないか。


(来るわよっ!)


 言って、那美音は風を起こすような勢いでくるりと振り返った。


 その瞬間、相手も飛び出してきた。


「動くな!」雑兵C。

「ひょおぅう!」雑兵D。

「いやっほぅ!!」雑兵E。


 那美音の言うように、数は三。統制の取れていない感じで飛び出してきた。なお、雑兵のAとBは、湖でアルファを襲っていたヘルメットかぶった連中であり、この雑兵たちとは違う。


「っ!」


 利奈っちは、小銃を構える。


 それで、敵兵三人の動きは止まった。


(マリナ。敵兵の足元を撃って。当てちゃダメよ。まずは威嚇射撃)


「うん!」


 そしてマリナは、正しい手順で引き金を引いた。


「ひぃ!」


 怯える声。


 しかし、カチリという音がしただけだった。


「あれ……」


 弾が出なかった。


 敵味方全員の間に、静寂が流れる。


「利奈っち、もしかして……」


 那美音。


「弾を……補充していなかったですか?」


「利奈っち、うっかり☆」


 うっかり、じゃねぇよ。


「じゃあ、もしかして……あたしのも?」


 那美音は言って、二丁の拳銃を西部劇のガンマンのようにくるくるっとカッコよく回しながら構え、正しい手順で発砲準備をして、銃口を上空に向けて両手の引き金を引いた。


 カチンカチン


 とか音がした。


「……弾、入ってないわね」


 じゃあ、つまり、武器を持ったは良いが、全て弾を入れ忘れてて、使えないという……。


 缶詰を持って来たのに缶切りが無い、みたいな話じゃないか。


 ある意味、一番火力があるのはアルファのピストル型ライターとはな……。


「やだ、どうなるの、私たち」


 怯える明日香が腕にぎゅっとしがみついてくる。


 案外可愛い反応だ。でもそんなこと言ってる場合じゃない。


「安心して。達矢くんがどうなるか知らないけど、アスカちゃんはちゃんと守るから。政治的理由で」


 何だと。


「おいおい、俺も守ってくれよ」


「お断りよ」


 ひどい。那美音さん酷い子。


「おにーたんは、あたしが守る!」

 アルファは、俺をかばうようにして立ち、銃のようなものを構えた。


 しかし、それは残念なことに銃ではないのだ。ちょっと銃口のところに火が灯るライターなのだ。


「へへへ、こいつら、弾切れらしいぜ。しかも子供までいやがる」雑兵D。


「ツメが甘かったな、この裏切り者どもめ」雑兵C。


「いやっほうぅ!」雑兵E。


 いかにも雑兵らしいセリフだ。しかも、一人、「いやっほう」しか言わない奴がいるぞ。


「来るわよっ」


 那美音が言った通り、雑兵三人は、


「いやっほう!」「うおお」「ふぅうう!」


 それぞれに叫びながら突進してきた。


 三人に相対するは、那美音さんと利奈っちの二人!


 そして、激突するっ!


 まず、利奈っちが


「おりゃああああああ」


 と言いながら、突っ込み、砲身を握り締めて振り回す。そして雑兵の一人を、小銃で殴った。

「うぐぁ!」


 雑兵は鎖骨のあたりを殴られ、痛みを訴えて倒れた。


 那美音も、銃で一番体の大きな雑兵をぶん殴った。


「いや……っほう…………ガクッ」


 いやっほう、しか言わない奴が倒れた。


 これで残りは一人。


「そう――」


「「銃は、殴るための兵器!」」

 二人、背中を合わせてのキメ台詞だった。


 しかし、そんなことをしていたところ、


「てめぇら! よくもっ!」


 雑兵Dは言いながら、アルファの背後に回りこみ、アルファを連れ去り、ナイフを取り出して、アルファの首筋に近づけた。


 俺はその一瞬の出来事を、ボンヤリと見ているしかなかった。


 素早い動き。敵は、どうやらそれなりに強力らしい。


「この子がどうなっても良いのか!」


 幼い女の子を人質にとるとは、何と卑怯な……。


 しかし次の瞬間――、


「たーすーけーてー」


 言いながら、アルファは持っていた銃の引き金を引いた。


 アルファの手の中にある銃の銃口の先から、青白い炎が上がり、それは、ジュッと音を立てて、雑兵の手を焼いた。


「アッッツゥウウ!」


 熱さに暴れる雑兵D。


 そしてすぐにアルファは解放された。


 さすが賢い子っ。


 さらに次の瞬間っ!


「てやぁっ」


 那美音が持っていた拳銃を投げた!


 くるくると回転しながら拳銃は飛んでいって、


「うぐぁ!」


 雑兵Dの腰にぶつかり、男はバタリと倒れた。


「銃とは! 最終的には投げてぶつけるための兵器!」

 巨乳さんは、ビシっと倒れた雑兵に向けて指を差していた。


「そ、そうっすか……」

 俺はそう呟くしかない。


 これにて雑兵たちは全て倒れ、平和な空気が戻った。


「それにしても……咄嗟の機転。さすがアルちゃんね」


「天才ですから」


「サナさんも、凄かったです」


「まぁね、スパイだから。それに、マリナも一人倒したじゃない」


「えへへ」


 頭を撫でられていた。それはまるで、姉に褒められる妹のように。


「でも、利奈っちはミスもあったよね」

 と本子さんがすかさずあら探しをする。


「う……」


「あぁ、そうだぞ利奈っち」と俺も続く。「何故弾が入っていない。管理能力が今、問われているぞ」


「え。だって、弾なんて入れたら危ないっしょ」

 それ銃として機能しないじゃねぇか……。


「ほ、ほら、武力を持ってることを示せれば良いと思うんだけどな!」

 言い訳に必死だった。


「弾切れがバレたら無意味だろ……」


「それに、ほら、慣れない武器だったし」


「慣れない武器?」


「そう。ほら、わたしの標準武装は、ほら、これ。銃の形したスタンガン」


 利奈は言って、敵兵に電極を撃ち込んだ。


「いやぁああっほうぅうぅ!」雑兵E。


 既に気を失っていた雑兵は、ビクンビクンと体を弾ませて苦しみながら叫んだ。


「びりびりくるよっ☆」


 雑兵は沈黙する。残虐行為だった。


「利奈っち……」と俺。

「…………」本子さん。

「マリナ……」と那美音。

「利奈っち……」明日香。

「おねーたん……」アルファ。


 皆して、かわいそうなものを見るような目を向けていたと思う。


「その……申し訳なかったです……」


 目を逸らして謝った。


「まぁ、もう済んだことで、皆無事だったんだから、いいでしょ」

 と那美音がフォローする。


「ええ、そうね」

 明日香も同意した。


「皆、優しい……」

 利奈っちは感激で、じーんとしていた。


「さて」那美音は、スイッチを切り替えろとばかりに手を叩き、「それはいいとして……多分、今、けっこうヤバイことになってるわね」


「ヤバイこと……? っていうと何だ?」


「つまりね、紅野明日香が生きていることが敵に知れたら……どうなると思う? アルちゃん」


「はい、(政府)軍の秘密兵器でこの町を壊しにかかるかもしれません」


「秘密兵器だぁ? そんな漫画みたいな……」


「細菌兵器とかの可能性もありますが、こちらは風のあるこの町では効果が未知数なので、可能性が高いのは原子力兵器や絨毯爆撃かもしれません」


 それは、何だかありそう。


「できれば、皆でこの町から退避した方が良いのだけど」


 アルファはそう言って、那美音の顔を窺った。決定権は多くを知っている那美音にあるとアルファは思っているのだ。アルファだけじゃない。この場に居るだれもがそう思っていた。


 その那美音は、呟くように、


「町では、避難が始まってるみたいだし……ちょっとヤバイかもね……」


「避難だと?」


「それって……私が居るから……なんだよね」

 紅野明日香が、悲しそうな声で呟いた。


「いや、そういうわけじゃ――」

 俺がフォローしようとするが、


「そう、アスカちゃんが居るから」


 そんな、はっきり言ってあげないでくれ。


 いや、別に明日香に優しくしたいとかそういうんじゃなくてだな、明日香はずっと俺の制服着た腕にしがみついていて、そのしがみつきが強くなれば、俺の肘が反対方向に曲がるピンチになるからだ。それ以外に、他意はないぞ。他意はないんだぞ。


「何で……? 何で私が……その……特別な存在じゃなくちゃいけないの?」


「さぁ、運命の悪戯ってやつじゃないかしら?」


「運命って、嫌い……」


 言いながら明日香は、しがみついていた腕に力を入れた。


「いたたたたたた!」


 肘がっ。肘がぁぁ!


「あ、ごめん……」


 謝ってきた。しかし、腕組みはやめない。少しでも温もりに触れていたいといったところなんだろうけど。


「それにしても、ずいぶん、仲良くなったみたいね……腕なんて組んじゃって」と利奈。


「ほらマリナ、よく言うでしょ。男女は戦場で結ばれるって」と那美音。


 初耳だし。そして明日香が勝手に腕組んで来ただけだけどな。胸ちっちゃいし。


「……達矢くん。今、考えてること、アスカちゃんに言って良い?」


「やめてください、ごめんなさい」


「何? 何かまた失礼なこと考えたんじゃないでしょうね。バナナが好きだからチンパンジーみたいだとか、そんなこと」


「そんなこと考えるかよ……」


 チンパンジーっぽくはないぞ。明日香は可愛い子だ。とても。


「達矢くんは、ただ胸が――」


「あぁっ、こら!」


 やめるんだ那美音。それをバラしてはいけない!


「胸が……何?」


「いやぁ、胸がドキドキするなぁって。女の子に密着されて」

 誤魔化した。


「いやらしい……」

 (さげす)まれた。でも、腕を折られるよりはマシだと思う。


「何か、仲良しですね」と本子さん。


「デキてんのよ」と利奈っち。


「デキてねぇ!」俺は言った。


「たーんたーんたたんたんたんたんたーんたーたたたーん♪」


「そこ! アルファ! 結婚行進曲っぽいのを歌うな!」


 思わず怒鳴った。


「善意なのに……」

 しゅんとした。


「あ……ごめん……」

 子供相手に大人げなかったかもしれない……怒鳴ったりして……。


「まったく、子供相手に、ムキになって……」

 利奈っちにジトっとした目を向けられる。


「おにーたん……ごめんなさい」


「その上、謝らせるなんて、最低。腕結ぶよ」


 明日香さん、痛い。その腕結ぶとかいうの絶対痛い。


「ていうか、グロいことを言うなよ……」


 そしてアルファが、申し訳無さそうに、


「でも、おにーたんとおねーたんには、仲良くして欲しいから」


 言うと、明日香はポッと頬を赤らめた。


 へいへい、恥ずかしそうに頬を赤らめるな。


 困ってしまうじゃないか……。


「ほら、アホな会話繰り広げてないで、話を進めるよ」

 那美音が困っている俺を見かねて助け舟を出してくれたようだ。


「お、おう。そうだ。これからどうするんだ」


「決まっているでしょう。廃屋にある冒険の鍵を握るアイテム。『輝く本』を取りに行くわよ」


 言って、那美音は歩き出そうとした。


 が、


「おねーたま。待ってください」

 アルファが止めた。


「……何? アルちゃん」


「トラップが仕掛けられている可能性があります」


「トラップですって?」


「こういう場合は、まずトラップの存在を疑うべきです」


「なるほど……さすがアルちゃん」


「天才ですから」


「となれば……」


 那美音は呟き、次の瞬間――赤い手榴弾の安全ピンを抜いて廃屋に向かって投げた。


「お、おい、那美音……何を……」


「伏せて!」


 大声で叫んだ。


 頭を押さえてうずくまった。


「…………」


 数十秒後。


「あれ? 爆発しないぞ、那美音」


 すると利奈っちが、「そんなはずないと思うけど。あれは確かに本物だったし……」そう言って、


「おかしいわね」と言いながら、那美音が立ち上がった。


 その時だった!


 どっかーーーーーん!


 爆発、爆風、吹き飛ぶ廃屋。


 風が過ぎ去った後には、日本家屋が炎上している光景。


 明日香も那美音も、アルファも、利奈も本子さんも、俺も、ただ立ち上がって、沈黙するしかなかった。オレンジがかる視界。


「てか、何で燃やしたの? その『輝く本』っての、重要アイテムなんじゃなかったっけ?」


「トラップを何とかするには、爆破が一番!」


「それで、その大事な本が燃える可能性は考えないわけ?」

 明日香がマトモなことを言った。


「そんなので燃えるようなら、伝説の本とは言えないわね!」

 那美音がマトモじゃない答えを返した。


「そういうもんなのか……」


「確かに、燃えないとは思います。既に燃えているみたいなものなので」


 と本子さんが言った、その時――!


 どごーーーーーん!


 二度目の爆発があった。


 そして、今度は何かが上空に飛び出す。


 俺の目は爆風に乗って飛ぶ、輝く何かを見つけた。


「あっ、見て!」

 上空を指差す利奈っち。利奈っちも輝く物体を見つけたようだ。


 みんなが、上空を見た。そこには、金色の淡い光を放ちながらパタパタと羽ばたいて飛んでいく本があった。


「てか……あれ羽ばたいてるんだけど……」


 明日香の言うように、確かに羽ばたいている。鳥みたいに。


「さすが不思議な輝く本ね……」

 落ち着いた那美音の声。


「いや……不思議すぎでしょ!」

 明日香がツッコミを入れるように言って、


「なかなか良い羽ばたきだね」

 もう現実逃避をしたかのように利奈っちが言う。


「冷静すぎでしょ。超常現象じゃん、あれ!」

 羽ばたく本を指差す明日香。


「何を今さら……」

 ちっちゃい子供に呆れられる明日香。


「うぅ……達矢ぁ……」

 助けを求めてきた。やっぱり可愛いところあるじゃないか。


「だが、『何を今さら』という意見に賛成だ」


「何なの……この異常世界」


 それに関してはまったく明日香に同感だが、今は、あの本を追いかけることが先決だろう。


「そうね、皆! ボーッとしてないで、あの本を追いかけるわよ!」

 那美音は拳を突き上げた。


「ゴーゴー!」

 そして、本子さんの号令で、羽ばたく本を追って駆け出した。


 ゴオゴオと音を立てて炎上する廃屋を背にして。


 紅野明日香は俺の腕をようやく解放し、


「そんなことより消火はっ!?」

 と言った。


「消火活動なら雑兵がやってくれるわ。いやっほうとか言いながらね」那美音。


「なら安心ねっ☆」利奈。


「あんし~ん♪」アルファ。


「おかしい……狂ってるぅ!」

 明日香は嘆くように言うのだった。


 確かにおかしいが、だが今は、輝く本を追う方が重要なことだろう。この町はマトモではないから。


「ゴーゴー!」


 走っていく。アスファルトの上を。


 森の上を飛んでいく輝く本を追って。


 さらに追って、追って、追って、地面の崩落によって俺と明日香が落ちた場所も抜けて、森の入口近くの横断歩道と信号がある場所に来た。


 そこで、ゆっくりと上空からふわふわと輝く本が降りてきた。


 光を放ちながら。


 輝く本は、紅野明日香の手の上に広げられた形で収まった。


 そして、数秒明日香が戸惑った後、輝く本は、赤く激しい光を放った。


「わっ」


「きゃぁ」


「何これっ」


「うぉっ」


 信じられないような量の閃光が洪水のように。


 そして明日香の持つ本を中心に、ありえない勢いの強風が吹いた。


 閃光と強風の中で、視覚と聴覚は一時的に失われた。


 俺は思わず目を瞑る。


 耳には轟々(ごうごう)という風の音。


 そして、俺の手は、誰かに掴まれた。


 熱い。何だか、すごく、熱かった。


 薄目を開けたその瞬間、繋がれた手は引っ張られ、俺は閃光と強風の中、明日香の後姿と一緒に、壁の中へと飛び込んだ!


 って、壁をすり抜けてるぞ!


 何だこれは!


 やがて、(はげ)しい光が優しい光にまで治まった時、俺と明日香は、洞窟の中、知らない場所に居た……。





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