上井草まつりの章_1-3
チャイムが鳴った。
授業が終了し、休み時間になったのだ。
ちなみに、授業内容に関しては聞かないで頂こう。さっぱり理解できなかったから。おかしいよな、ちゃんと手元に教科書あるのに。
と、その時だった。
「ちょっといいかしら」
知らないキャラ登場。
「誰やねん」
自己紹介の失敗を引きずり、関西っぽく言った。
ちなみに、関西弁など喋れないので発音が怪しい。
「戸部達矢くん。私は、伊勢崎志夏。このクラスの級長なの。よろしくね」
髪の短い美女であった。
ていうか、関西弁に関してはスルーである。級長すらスルー体質とは、いやはや、このクラスには優しさと笑いが足りない。
「はぁ、どうも。何て呼べばいい?」
「志夏、でいいわ」
「そうか。それで、志夏、何か用かい?」
「ん? ああ、うん。用件というかね、まぁ、何て言うか、この学校は、少し、何と言うか、おかしな生徒が多いから、ね」
なるほど。
転校生がイジメの標的になったりしないように見守ろうというわけか。級長らしく面倒見が良いらしい。
「それに、戸部くんは少し、孤立してしまいそうだから、ね? わかる?」
なるほど。
転校生が孤立してしまわないように話しかけてくれているというわけか。級長らしい。彼女は級長らしいが、俺としては、みじめだ。
と、その時、俺のことらしい囁きが耳に入った。クラスメイトのヒソヒソ話である。
「不良ってだけで飛ばされてくるなんて、よっぽどの不良なのね」
「見ろよあの目付き。人殺してそうな感じがビンビンしやがる」
「おいおい女子ども、あんまりじろじろ見てると危ねぇぞ、何されるかわかったもんじゃねぇ」
「あ、そ、そっか。皆、目を合わせないようにしよう」
「そうだな、それが良い」
ひどい子たち。泣きそう。
「ごめんね、うちのクラスの連中、みんな性格悪くって」
笑顔で言うことか。
「あ、あともう一人、規格外の不良っていうか、要注意人物が居るから、その子にだけは逆らっちゃダメよ。死ぬから」
えっと、死ぬって、どんなレベルの不良だ、それ。
「どこに居るんだ?」
訊くと、志夏は教室を見渡して言った。
「んーと、まだ来てないわ」
「ほう、遅刻か。不良だな」
「根は良い子なんだけど、ちょっと、性格に難があるというか……素直じゃないというか……」
「とにかく、困ったことがあったら、何でも私に相談してね」
「おう、わざわざサンクス」
「あ、それと、まだ初日だから笑いが取れないのは仕方ないわよ。それじゃあね」
伊勢崎志夏は言うと、颯爽と教室を出て、廊下に出て行った。
励ましが、心に染み入る。
俺は、窓の外を見た。
キィキィと音を立てて、大きな風車が回転してる。
まぁ、何とか、登校拒否はしないで済みそう、かな。
授業中。
俺は窓際の席に座り、窓の外の風景を見ていた。
巨大な風車が、時計回りに回転しているように見えた。
キィキィという摩擦音を立てながら。
と、その時――
「くぉら、窓際最後尾!」
声がした。
「え?」
振り返ろうとした時、
ベコォ!
「コメカミッ!」
思わず叫んだ。直撃した部位の名称を。
「転入初日で呆けるとは何事だ」
「すみません……」
教師はツカツカと向かってきて、俺の足の近くに落ちた白チョークを拾い上げると、戻っていった。
「………………」
ああ、静か過ぎる……。
今のは、もっと笑われたりする賑やかな場面のはずだ。
何だってこのクラスは、何かに怯えているかのように生活しているんだ。
と、その時、ガラッと扉が開いて
「げぇ……もう授業中か!」
背の高い女だった。
って、あいつは……。
今朝俺を撥ね飛ばした背の高い女!
大遅刻してきやがった。
朝、俺をぶっ飛ばしたのだから、ずっと学校に居たはずだ。なのに、こんな時間に登校ということは、どこかで暇を潰していたに違いない。
不良だ。不良以外の何者でもない!
もしや、あれが志夏の言っていた要注意人物ってやつか?
「遅いぞ、上井草まつり!」
上井草まつりという名らしい。
「ソーリーサー!」
左手で敬礼していた。だが、何だろう、反省の色が感じられない。
「はぁ……いいから席つけ、席」
上井草まつりという女は、「へーい」とかってふざけた返事をして、廊下側の席に座った。
廊下側にあった縦に並んだ二つの空席のうちの後ろの席。
そして、その後は一応真面目に授業を受けているようだった。