最終章_6-6
明日香の待つ部屋に戻る。扉を開けて部屋に入る。
いつの間にか目覚めた紅野明日香と、ソフトクリームの最後の一口を口の中に放り込んだアルファが待っていた。
「うわ……」
「ひぁ……」
二人は利奈っちの姿を見ると、明らかに驚いた。
まぁ、そりゃそうだよな。いきなり兵器を体に巻きつけて登場したら、誰だって驚く。俺だって驚いた。
「利奈っち。こわがられてますよ」本子さんは言った。
「そりゃそうっしょ……」
呟きながら、利奈は体に巻きつけていた兵器たちを次々と地面に置いた。
「さ、達矢。お財布」
「お、おう」
那美音が手を伸ばしてきたので、財布を返す。女性陣の中で唯一の巨乳さんは、それをポケットにしまった。
「さて、ところで、もうあまり無駄話してる暇なんて無いよ。もうすぐ敵が来るからね」
那美音は、さらりとそんなことを言った。
「敵ぃ?」
そんな重大なことをさらりと言うなよ。
「正確に言うと、敵がソラブネを探しにこの町に入って来ようとしてる」
「それは、どっちの軍だ? 政府のS軍? 民間のM軍?」
「さて、どっちでしょう」
「確か……ソラブネを狙っているのは、M軍だったよな。てことは……M!」
「ぶー。はずれー。残念でしたー」
「じゃあ、S軍が?」
「ぶー。違います」
「まさか、第三の勢力か?」
「違うー」
「じゃあ何なんだ……」
あれも違う、これも違うと。
「達矢くんは、質問自体が不正解なの」
「どういうことだ」
「S軍M軍、両軍が来るってこと」
「両方……」
「それって、ちょっと、やばいんじゃないの?」
と利奈が怯えている。燃える展開ね、なんて言ってたはずだが、ようやく事態のヤバさを飲み込めたらしい。理解するの遅いよ、利奈っち。
とはいえ、かく言う俺も、今の今まで事態を甘く見ていたような気がする。何となくどうにかなるんじゃないかってフワフワした気持ちでいた。
「やばいのよ。だから、こうして武器を持って来たんでしょう」
「何とかなるの? サナさん……」
「何とかするの」
とその時、明日香がおずおずと、
「あの……話が、よく見えないんだけど、まさか、その武器ホンモノじゃないよね」
「ホンモノっしょ」利奈が答えた。
「すばらしい武装だったわ。マリナ」
「まぁ……それほどでも……」
照れていた。
「これで、あたしたちは、あと十年は戦える……」
呟く那美音。
「――十年も戦いたくねぇよ」
「……で、冗談はそれくらいにして、作戦を立てるわよ」那美音。
「作戦?」俺。
「ねぇ、達矢。これ、夢よね」明日香。
「さぁな……」
「わたしも、夢だと思いたいけど……」
明日香と俺と利奈っちが現実逃避したがる中、
「どんな作戦ですか?」
とノリノリのアルファ。
「さすが、アルちゃんは話が早いわね」
「いちおー軍人ですから」
「そうだったわね」
「あのぅ……まさか本当に軍隊と戦うなんて、聞いてないんだけど」と利奈。
「言ったじゃないの」
言われてみれば、どっかで言ってたような気もする。で、その時は利奈もノリノリだった気もする。ただ、冗談かサバゲーかと思い込んでいたのだろう。
「それで、作戦は単純」
「どんなだ」
「SM両軍よりも先に、ソラブネを見つけ出して起動させること」
利奈っちが、この町では北の森以外を探し尽くしていることを考えれば、北の森にソラブネへの入口がある可能性が高いとは思うが……。
もしも、軍も北の森に目を付けていたら、と考えると、ちょっと危ないんじゃないだろうか。
もっとも、危ないとか危なくないとか言っていられるような状況ではないのかもしれんが……。
「できるのか?」
俺は訊いたが、那美音は自信ありげに、
「できる。というよりも、もう、ソラブネの場所は、だいたいわかってる」
「そうなのか」
「ええ。この町に、既にソラブネの場所を知ってる人が居るの。だから、その人の心を読めば、ソラブネへの道がわかる」
「へぇ……」
便利だな、テレパシー。
「というわけで、急がないと」
「サナさん。もうそんなにピンチなの?」
利奈っちはとにかく行く末を心配しているようだった。
「そうね……」
なお、利奈っちの中では、那美音は『サナさん』らしい。
やはり昔からの知り合いのようだ。
「連中の目的は、以前も言ったように、そこのバナナ娘の捕獲もしくは殺害」
バナナ娘って……。
「殺伐としたこと、簡単に言わないでよ」
紅野明日香は顔をしかめた。
そんな時、アルファが「ほかくー♪ さつがーい♪」と調子外れに歌い出し、「こら、やめなさい」と那美音が叱った。
「ふぁーい、ごめんなさーい」
機嫌の悪い明日香は、「何なの、このガキ」と言って睨みつける。
「天才です」
「そして、あたしはスパイです」
「あ、わたしは、読書が趣味です」
「本子は幽霊です」
「俺はプチ不良です」
「…………」
「ほら、明日香の番だぞ」
「私は、普通の……女の子です」
「ちょっと横暴でバナナ好きな、な」と俺が補足する。
「ケンカ売ってんの?」
「いやぁ……」
「はいはい、言い争っている時間は無いわよ。武器をとりなさい」
武器、ねぇ……。
「そうねぇ。まず、マリナっちは……これが良いかな」
那美音はそう言って、小銃を手渡した。
「あ、うん……」
首をかしげていた。
「達矢は、対戦車スーパーバズーカ」
那美音は言って、なんか、でかくて重いのを手渡してきた。
「お、おう……」
何か、強そうだ。
「アスカちゃんは……じゃあ……せっかくセーラー服だから、機関銃を持ってもらおうかな」
これも、でかくて重そうなのを、那美音は軽々と持ち上げて手渡した。
「え……あ、はい……」
言いながら、受け取った瞬間――
「きゃあっ!」
悲鳴を上げたかと思ったら、地面にずずんと落としてしまった。
「やっぱ、重くて無理か」
「お、重すぎでしょ……」
「30キロ以上あるからね」
「こんなの、よく運んで来たわね、利奈」
「ええ、すごいでしょ」
ふふん、と誇らしげだった。
もしも本当だったら、女の子としてはかなりの力持ちだが……おそらく……。
「実は本子が念動力で運んだんですよ」
まぁ、そうだろうな。
「えっと、機関銃がダメなら……拳銃なんてどう?」
言って、今度は回転式拳銃を手渡した。
「はぁ」
気のない返事で受け取る明日香。
「そして、あたしの武装はこの赤い手榴弾と二丁拳銃!」
柳瀬那美音は自分の武装を見せびらかした。
その後、しばらくそれぞれが武器をいじくったり、目を強く閉じて現実逃避したり、取り扱い説明書を読んだりといった、静かな空間が広がった。
薄暗い洞窟部屋の中、沈黙を破ったのは、天才少女のアルファちゃんだった。
「……あれ? アルファのは?」
那美音は一つ、呆れたような溜息を吐いて、
「アルちゃんは……怪我するから、こういうのは……」
「あたしだけカッコイイの無いなんて、悲しい……」
泣きそうだった。
「そ、そうは言ってもねぇ、発砲した反動で細腕の一本や二本くらい、持ってかれちゃう気がするし」
「できれば、ロケットランチャーを撃ちたいです」
「やめときなさい……」
撃つという行為だけで命の危機だろうからな。後方に吹っ飛んでしまうぞ。
それに、子供に武器を持たすものではない。
いや、まぁ、俺たちも子供ではあるが……。
「代わりに……そうね……このピストルをあげるわ」
那美音は言って、回転式拳銃を手渡す。
「お、おい……良いのか? 子供にあんなの持たせて」
俺が言ったが、
「大丈夫。あれ、ピストルの形をしたライターだから」
那美音は小さな声で俺に言った。
「なるほど……引き金を引くと、銃口のあたりから炎が出るアレか」
「わーい♪」
喜んでいた。
「本子には無いですか?」
「幽霊に持たせる武器は無いわね……」
「じゃあ、嘘っぱちの情報を流して、敵戦線を霍乱するくらいしかできませんね……」
「そんなことができるなら、すごい武器ね」
「あるいは、敵に経済制裁予告をして、開戦に踏み切らせるとか……」
「それはやめて。むしろ最悪。正面からやり合って勝てる武装じゃないでしょ。ていうか、経済制裁なんて、できる立場じゃないでしょ……」
「そうでした。冗談です」
「まったく、変な連中ばかりね……」
と那美音が言ったが、
「お前に言われたくないな」と俺。
「わたしも、サナさんには言われたくない」と利奈。
「本子もです」と幽霊。
「あ、私も」と明日香。
「あたしも」とアルファ。
那美音は、やれやれといった様子で肩をすくめ、後、真剣な表情と声で、
「……まぁ、そんなことより、さっさとソラブネに行くわよ!」
「ゴーゴー!」
それぞれの武器を持ち、ぞろぞろと歩き出した。