最終章_6-3
待つこと数分。
「おまたせ」
制服姿のみどりがどこからか現れ、外からガラガラガラっとシャッターを開けた。
「なんか、すまんな……わざわざ」
「ほんとにね……」
溜息混じりに言った後、
「ま、とりあえず、どうぞ」
と言って、店内へと続く引き戸を開けてくれた。
「お、おう……ありがとう」
で、薄暗い店内に入って、後ろ手で戸を閉める。
「それで……何だっけ?」
「ああ、えっとだな、まずはソフトクリームだろ、あと、バナナと、メロンパンを十個くらいと、お菓子なんてあるか?」
「まぁ、あるけど……」
「では、それを頼む」
「うん……わかった」
みどりは言うと、店内をサササっと移動し、メロンパン十個と、黒くなってしまっているバナナと、スナック菓子数種を持って来て、台の上に並べた。
「おお、ありがとう」
「バナナ、ちょっと黒いけど……」
ちょっと……?
いや、かなり黒いが。
「まぁ、大丈夫だ。明日香が言うには、ちょっとくらい黒い方がゴールデンらしい」
「それにしても、黒すぎると思うけど……」
ううむ、言われてみると、確かに黒すぎる気もするが……。
炭みたいだ。ていうか腐ってるだろこれ。ちょっと酸っぱい系のヤバイにおいもするぞ。
「だが、これしか無いんだろう?」
「無いよ。そして、正直……それ、いつのバナナかわからないよ」
「たぶん……ぎりぎり大丈夫なんじゃないかな」
俺は言った。
「そう。戸部くんがそう言うなら、いいけど」
言って、みどりは品物を紙袋に詰めた。バナナを掴む際には、汚いものに触るかのようにつまみあげていた。
「あとは……ソフトクリームか」
「あ、ちょっと待ってね。すぐ作る」
「おう」
みどりは、ソフトクリーム製造機械と思われる機械の前に立った。
どこからかコーンを取り出し、機械の前に持っていく。
そして、
「いきますっ」
言って、レバーを引き下げると、白いものが蛇のようにニュルニュルと出てきた。みどりはコーンを持った手元をくるくると動かし、そして完成させた。昨日よりも、綺麗にできていた。
「いくらだ?」
「えっとね……合計、二千円くらい」
「『くらい』って……アバウトすぎるだろ……」
そんなんじゃ、信用を失って店がつぶれるぞ。
どんぶり勘定の店は、信用できないと、俺は個人的に思うのだ。
「だってぇ、起きたばかりで計算とかしたくないもん」
「あ、それは、まことに申し訳ない……」
そうか。じゃあ、今日に限っては、俺のためにわざわざ店を開けてくれたのだから、みどりの意思には従いたい。たとえ、何割か多く要求されていたとしても、そのへんは早朝にもかかわらず店を開けてくれた手数料だと言えるだろう。ていうかむしろ安いような気もする。
レジで計算でもすればいいんじゃないかと思ったが、レジは故障中でただのインテリアと化しているようだった。
「じゃあ……二千円……」
俺は那美音の財布から千円札を二枚取り出し、台の上に置いた。
「はーい、ありがとうございまーす」
代わりに、品物が入った紙袋と、ソフトクリームを受け取る。
「色々、ごめんな」
「まぁ、良いけど……」
「じゃあ、またな」
「はい。ありがとうございました~」
俺は、ゆるい声を背中できいて、笠原商店を出た。