最終章_6-2
さて、どうやら外は未だ陽が昇らぬ早朝だったらしく、ほの明るい町が広がっていた。視界に広がる商店街は、シャッター通りであった。そして、それは、笠原商店も例外ではなく。
「閉まってやがる。まだ早すぎたんだ」
目の前には閉じられたシャッター。
ただ強い風だけが通り過ぎていく。
さぁ、どうする。どうする戸部達矢?
このまま手ぶらで帰ろうものなら、女性陣に責められるが……かといって、ここで開店を待っていても、「遅い」と責められ、四面楚歌世界が加速してしまう。それは避けたい。
ならば、どうするべきか。
みどりを直接呼んでみるか。迷惑だとは思うが……。
何となくだが、看板の上にある窓がみどりの部屋だと思う。
俺は、近くに落ちていた小石を拾い上げ、窓に向かって投げた。
コツンと音を立てる。
窓は何も言わなかった。
うーむ。もう一回ぶつけてみるか。
俺は、再び小石を拾い上げ、投げる。
コツンと窓にぶつかる。
しかし、また窓からは何の反応も無い。
よし、もう一回。
俺は三度目の正直とばかりに、小石を投げた。
次の瞬間、ガラリと扉が開いて、
「誰――」
と言ったみどりの額に、コツンと小石がぶつかった。
「あいたっ」
みどりの声がした。
「あ……すまん……」
「いたたた……誰? まつりちゃん……?」
髪の毛ぼさぼさで、起きたばかりのような笠原みどりは、額を押さえてそう言いながら俺の姿を視認する。
「おはよう、みどり」
「おはようじゃないわよ。何なの、戸部くん」
「いや、すまんな……起こしたか?」
「見ればわかるでしょ」
「そうか。ごめん」
言われてみれば寝起きっぽい顔してる。
「それで、何の用ですか?」
「いや、あの……言いにくいことなんだけどな……」
「何ですか」
「今すぐ、店を開けてくれないだろうか」
「どうして」
「いや、ソフトクリームをだな……」
「はい?」
「幼い子が、ソフトクリームを欲しがっているんだ」
「またそれ?」
「そして今回は、それだけじゃない。メロンパンやら、お菓子やら、バナナなんてものも求められているのだ」
「誰に」
「年上のおねえさんとか、利奈っちとか、明日香とか……そんな方々が家で待っているのだ」
「え? 何、えっと……女の人と一緒に住んでるの?」
「いや、そういうわけじゃない……と思うが」
基本的に、俺は野宿だからな。
「……まぁいいか……とりあえず、そこで待ってて」
「おう。ありがとう」
そして、窓はピシャンと閉じられた。




