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最終章_5-8

 さて、漠然と学校と言われても、一体学校の何処だという話で、とりあえず来てみたは良いものの、その財布を拾った不良が何処に居るのか、わからない。


 とにかく校内を歩いてみるか。


 手がかりを探すために。


 ――いや、待てよ。


 ここは、俺の知り合いネットワークを使用してやろうではないか。


 そうだな……志夏。


 神を自称するあの子なら、財布を持った不良が何処に居るかなんてお見通しに違いない。


 さて、そうと決まれば生徒会室に行ってみることにしよう。





 というわけで、生徒会室に来た。


 ドアをノックしようとしたところ、


「何か用?」


 背後から話しかけられた。志夏だった。


「お、おう、志夏」


「どうしたの? 何かトラブル?」


 さすが神さまを自称するだけのことはある。


 話が早いぜ。


「いや、実はな、財布を落としてしまって、それを不良に拾われたらしいんだ」


「そうなんだ。大変ね……」


「それで、この学校で不良が行きそうな場所って、あるか?」


「そうね、中庭には居なかった? よくあのへんで、たむろってるわよ」


「中庭は、さっき通ってきたが、いなかったぞ」


「そう……じゃあ、体育館とかは?」


「体育館か……なるほど」


「たぶんね」


「わかった、ありがとう」


「頑張ってね」


「あ、ああ。きっと、話せばわかってくれるよな……」


 俺は、体育館へ向かった。





 言われてみれば確かに、不良と言ったら、休日に忍び込んで、体育館で遊んでいるイメージがある。


 もちろん根拠なんて無いが。


 ということで、体育館に来てみた。


「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」


 ひたすら高速スクワットジャンプを繰り返している上井草まつりの姿しかなかった。しかも、かなりの高さだぞ。一メートル以上跳んでる……。


「よ、よう、まつり」


 何となく近付きがたい雰囲気だが、勇気を出して話しかけてみた。


「ん?」


 まつりは、俺の接近に気付いて、


「えっと、キミは……利奈の友達……」


「ああ。戸部達矢だ」


「そうそう。それそれ。達矢達矢」


「ああ」


「今日は、どうしたの? 一人で」


「いや実はな、財布を落としたんだ」


「財布……?」


「ちなみに訊くが……財布を拾ったりしてないよな?」


「うん、拾ってないけど……そういえばさっき、不良が『道端で財布拾ったぜヒャッハー』って叫びながら校舎内に走って行ったわよ」


「それだ」


「何かトラブル? 手伝おうか?」


 首を突っ込みたくてウズウズしているといった様子で訊いてきた。


「いや、これはたぶん、自分の力で解決せねば、綺麗なおねえさんに叱られるんだ」


「綺麗なおねえさん? 何それ」


「いや、まぁ、こっちの話だ」


「あっそ」


「その不良は、どこに向かった?」


「さあね、別に興味ないから、校舎に入ってった後は知らねぇよ」


「なるほど……そっか、教えてくれてありがとう」


「危なくなったら、大きな声であたしを呼んで。というか、あたしが一緒に付いて行こうか?」


「いや、きっと、話せばわかってくれるから、大丈夫だ……」


 それに、まつりを連れていると逆に更なるトラブルに巻き込まれそうというか、俺がぶん殴られそうな予感があるから、やめとこう。


「そっか……」


「というわけで、じゃあな」


「うん、バイバイ」


「おう、ありがとなー」


 俺は体育館を出て、校舎内へと駆けた。





 あと一人、知っている人間が学校に居るということを、俺は知っていた。その子が何も知らなければ、もう手掛かりなしの状況から自力で探さないといけないだろう。


 不良どもが校舎内のどこに居るのか。意外と広いからな、この学校は。少しでも手掛かりが欲しい。


 というわけで、理科室前に来た。


 ドアをノックしてみる。


「ふぁーい」


 気が抜けそうな返事と共に、紗夜子が姿を現した。


 寝癖が可愛い。


「お、おう、紗夜子」


「えーと……たっちー」


 指をさしてきた。


「今、暇か?」


「今起きたとこ」


「今起きただぁ? もう夕方くらいだぞ」


 どんな生活してんだ。


 あぁ、でも、そういえば、こいつは生活リズムが狂ってるんだったな。


「まぁ良いか。それで、訊きたいことがあるんだが……」


「訊きたいこと? 何?」


「えっとだな……この辺で、財布を見なかったか?」


「これ?」


 紗夜子は、イタリア国旗みたいな色の財布を取り出して、見せてきた。


「いや、違う」


「じゃあ、こっち?」


 今度は、トルコ国旗みたいなデザインの財布を取り出して見せてきた。


「違う」


「じゃあ、これ?」


 次はドイツ国旗みたいなデザイン。


「違うぞ」


「これ? これ? これ? これ? これ?」


 ポルトガル、インド、スペイン、タイ、台湾。


 何だこの、万国旗みたいな財布たちは……。


 しかも、鮮やかで綺麗な刺繍で高級そうだぞ……。


「いや、こういうのじゃないんだが……」


「ふーん、そっか」


「ていうか、お前これ……どこで買ったんだ?」


「自分で作った。可愛いでしょ」


「そりゃ……すごい技術だが……」


 だが、国旗を、こういう消耗品に使うのって、どうなんだ?


 個人的に楽しむなら良いのかな……。


 いや、しかし、国のシンボルたる国旗のデザインを、こんなものに使うと、怒られる可能性もあるぞ。針を入れているわけだから、ちょっと良くないんじゃないか。


 いや、しかし、愛は感じるし、いつも身に付けていたいくらい好きだということであるなら、許されるような気がしないでもないが……。


 いや、だが……。


 まぁ、俺が言うことでもないか。


「オススメはトルコ」


「かっこいいな」


「好きなの、あげるよ?」


「個人的にはイタリアが欲しい」


「ダメ」


「えぇ!? 好きなのくれるって言ったじゃん!」


「これだけはダメなの」


「そうなのか」


「わたしのイタリアを欲しがる子には、もう何もあげないよ」


 いや、イタリアはお前のものじゃねぇだろ。


 イタリアはイタリアのものだ。


 この町がこの町のものであるように。


「ま、まぁ、それはともかくだな……じゃあ……不良たちが居そうな場所ってのを教えてもらえないか?」


「不良……?」


「ああ、財布をな……」


「たっちー。カツアゲされたの?」


「ちげーよ。落としたのを不良に拾われただけだ」


「かわいそうに……」


 どうやら、カツアゲされたと決め付けられているらしい。向けられているのは憐れみの視線だ。


「わたしが、取り返して来てあげよっか?」


「いや……その必要は無い。自分で取り返さないと、怒られる」


「怒られるって、誰に?」


「綺麗なおねえさんだ」


 柳瀬那美音という名の、な。


「マリナっち?」


「利奈は、あれは、可愛くてドジな妹みたいなもんだ」


「あ、じゃあ、あすにゃん」


「あれも、どちらかと言えば可愛い系だ」


「第三の女性の影!」


 指を差してきた。


「まぁ、その通りだな。第四の女性も居るぞ」


 第三は那美音。第四はアルファのこと。


 ま、アルファに関しては子供だがな。


「この女たらし!」


 何か、おこられた。


「イタリア人じゃないんだから」


「どういう意味だ……」


「イタリアの人は、すぐに女の子に声をかけてナンパしちゃうことであまりにも有名」


「そうなのか……」


「あ、そだ、たっちー。お茶でも飲んでく? これからモーニングティーなの」


 今度は突然そんなことを言ってきた。ていうか……全然モーニングじゃねぇぞ。間もなく夜だ。


「いや……ゆっくりくつろいでいたら、綺麗なおねえさんに叱られるんだ。急いで財布を持って戻らないと」


 俺は断った。


「ふーん」


 何だか不満そう。


「それで、紗夜子。本当に、財布の手がかりとか無いか?」


「無いよ」


「そうか……じゃあ、不良の手がかりとかは」


 まぁ、こいつ自体が理科室に住んでいる一番の不良生徒かもしれんが……。


「不良さんなら、屋上に居ると思う」


「屋上……か」


「さっき、『ヒャッハー』って言いながら階段を駆け上がってく声がしたから」


「それだ! 間違いない」


「そっか」


「わかった、教えてくれてありがとう」


「頑張ってね。危なくなったら叫んで助けを呼ぶんだよ?」


「あ、ああ。きっと、話せばわかってくれるから、大丈夫だ……」


 大丈夫だよな……大丈夫だと信じよう。


 でも、少し覚悟はしておくか……。


「また来てねー」


「おう、ありがとなー」


 俺は屋上へと駆けた。





 屋上の引き戸を開けると、夜空の下で、五人くらいの不良集団の姿があった。


「ん? あんだてめぇ。何見てんだよ。変なシャツ着やがって!」


 あからさまな不良が急接近してきてそう言った。


 あぁ、利奈っちのパパの服のままだったな、そういえば……。


 まがりなりにも学校に来るんだから制服を着てくればよかったぜ。


「ここが不良A様のお気に入りの場所だと知っての狼藉かぁ? あぁん?」


 いや……まだ戸を開けただけなんだが……いきなりケンカ売って来たぞ。


 頭の悪そうな感じがヒシヒシと伝わってくるぜ。


 おそるべし、不良ども。


「よう、何の用だ。貴様」


 一番雰囲気のある番長風の不良が言った。


「あぁ……えっと……財布をな……」


「財布だと?」


「そう、財布だ。ここに、無いか?」


 俺が言った時、別の不良が、


「あ、あの財布は、拾ったんだぁ!」


 とか叫んだ。


 ここにあるらしい。


「てめぇ! 余計なこと言うんじゃねぇよ!」


「ひぃ、すみません! Aさん!」


 何だ、このコント集団は……。


「で、この財布は、自分のだから返してくれとでも言うつもりか?」


「いや……微妙に違うな」


「では何だ」


「その財布は、俺のではなく、綺麗なおねえさんのものだから、返さないとお仕置きされてしまうのだ」


 俺が事実を告げると、


「き、綺麗なおねいさんのお仕置きだと!」


 不良Aは興奮した口調でそう言って、見覚えのある財布を取り出した。


「「「「Aさん! 何をっ!」」」」

 不良どもは、声を揃えて責めるような声を出した。


「何って……決まっているだろうが!」


「決まってる……って……?」


「この男に、そのような良い思いをさせるわけにはいかない! おねいさんにお仕置きされるなどと!」


「「「「Aさんの悪いクセが出たァ!」」」」

 また不良の揃った声。


「というわけで、この財布は返そう」


 何だ、この変態は。おかげで助かるが……。


「本当か?」


「ああ、受け取れ」


 不良Aは、財布を投げた。


「「「「あああああっ!」」」」


 ぱしっと受け取り、中身を確認する。


 札束は入ったまま。


 ふぅ……安心だぜ……。


「ありがとな。拾ってくれて」


「いいか、貴様、お仕置きをされたら承知しないからな」


「わかったよ」


 当り前だろう……。


 誰が好き好んでお仕置きをされたがるんだ。


 ドMの変態さんじゃあるまいし。


 とにかく、俺は、屋上を後にする。


「絶対だぞ~!」


 その背中に、変態不良の叫び声を聴きながら……。





 で、戻ってきた。


「ただいま」


「お帰り。無事取り返せたみたいね」


「おう、取り返してきたぞ。知り合いの助けもあってな」


「そう」


 俺は財布を手渡して、部屋を見渡す。


「――って……起きてるの那美音さんだけか。アルファまで寝てるな……」


 ベッドには明日香とアルファが並んで寝ていた。


 まぁ子供だからな。すぐ眠くなってしまうのかもしれん。


「違うわよ。うっさいから黙らせたの」


 またかよ……。


「那美音さんって……けっこう暴力的っすよね」


「そう? この町じゃ普通じゃない?」


 言われてみれば、そんな気もするが。いや、やっぱり異常だと思う。


「俺のことも黙らすとか、考えないで下さいよ」


「いや、達矢くんの思考は、あんましうるさくないから……」


「でも、紅野明日香の思考はそもそも那美音さんには読めないから、うるさいとか無いはずじゃ……」


 那美音は仰向けで眠る明日香に視線を送り、


「この子は、何を考えてるか読めないだけで、『何かを考えてる』ことは読めるの。けど、テレビの砂嵐画面みたいにノイジーで、しかも最近の思考の音は大音量で聴いてらんないの。だから、アスカちゃんを眠らせておかないと、イライラしちゃって」


「そうなのか……」


 つまり、言い方悪いが、「存在がうるさい」ということだな……。


「でも、じゃあアルファは?」


 俺が訊くと、今度は赤ん坊のように体を丸めて眠るアルファに視線を送り、


「アルちゃんは、思考の量が多すぎるし、思考の質も高すぎる。本来人が持っていないはずの知識まで持っていて、アルちゃんの心読んでるとこっちの頭が破壊されそうで。ずっと我慢してたんだけど、ついに限界を迎えちゃってね。その点、達矢は何も考えてないようなものだから、楽で」


「微妙に失礼だな……」


 那美音は俺に向き直り、


「褒めてるのに」


 絶対ウソだろ。バカだって言われた気がしたぞ。


「まぁ、とにかく、今日は疲れたわ。このくらいで寝ることにしましょ」


 まだ夕方だが……。


「やっぱ、テレパシーって、疲れるのか?」


「当り前でしょう」


「寝れば回復するのか?」


「ええ。ある程度は」


「じゃあ……使いすぎは、まずいんじゃ……」


「でも、使わないと、助からないなら、やっぱり使うしかないのよ」


「無理は、しないでくれよ」


 命を削ってまで能力を使っているのなら、無理はさせたくはない。


 だが、追手の気配に常に気を回していないといけないのも事実なのだろう。


 俺にも、彼女の力になれる能力がほしいと思った。口には出さなかった。


「さて、じゃあ、本当に寝るからね。言っとくけど、女三人が川の字になって寝てるからって、悪戯したら……わかってるよね」


「当り前だ」


 俺が那美音さんに勝てるわけないだろう。


「ならばよし。おやすみ」


 頷いて言うと、那美音は二人が眠るベッドに入った。


「ああ、おやすみ」


「すー、すー……」


 あっと言う間に眠っていた。




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