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最終章_5-1

  ☆


 まただ。


 また、視線を感じる。


 監視されている気がする。


 誰だろう。


 ストーカー?


 逃げなくちゃいけない。


 誰から?


 誰かから。


 この場所に居たくはない。


 よくないことが起こる気がする。


 嫌な予感がする。


 微かに。でも強く。


 ここではない、遠くへ行きたい。


 行かなきゃならない。


 だから私はその日、家に帰らなかった。


 …………。


 ある日、友達の家を泊まり歩く生活を繰り返していた私が外からコソコソ帰って来た時……父と母が私抜きの家族会議をしているのを聞いてしまった。


 私はそれを、音を立てずに盗み聞きした。


「我々の子ではないのではないか」

 父は言った。


「そんなわけ無いでしょう!」

 母は言った。


「だが、何かが違う。我々のどちらにも似ていないではないか」


「でも、明日香は確かにうちの子です」


「それはわかっている。だが、最近明日香の様子がおかしいだろう」


「それは、あなたが信用しないから……」


「明日香は! 明日香は、我々とは何かが違うんだ。それはおまえもわかっていることだろう……」


「でも……」


「とにかく、一度、どこかに預けてみるのが、安全なのではないか……」


「そうね……」


 嗚呼、私は、こんなにも危険視されているんだ。


 こんなにも信用されていないんだ。


 苦しかった。


 私は、帰ってきたばかりだったけど、また家出することを決めた。


 数時間後、父親に発見されて連れ戻された。


 それから数週間後だった。


 私の『かざぐるま行き』が決定したのは。


 嗚呼、父と母が、私を厄介払いしたんだ、と思った。


 …………。


 風車が力強く回転を繰り返す風景が広がる町に来た後も、誰かから監視されている感じは消えなかった。


 それどころか、強く、しつこくなっている気がした。


 どうして、私は、こんな所に居るんだろう。


 私は、普通に暮らしたいだけ。


 父親がいて、母親がいて、普通の女の子の暮らしがしたいだけ。


 なのに、どうして私は監視されているの?


 私は、視線からひたすら逃げた。


 …………。


 転校初日。


 視線から逃れるように坂を駆け上がり、学校に着いた。


 まずは一番高いところに登りたい。


 私は、屋上に辿り着いた。


 更に上へ登れるハシゴのようなものがあったので、それに掴まって、給水塔等のある屋根の上に登った。


 屋上よりも高い場所。


 強い風が、私の中のモヤモヤを吹き飛ばしてくれる気がして、爽快だった。


 私は、パタリと仰向けに寝転がって、青い青い空を見た。


 雲が高速で流れていく。


 綺麗。


 嗚呼、でも、また、誰かから見られている気配がする。


 どうして私は、誰かに追われているんだろう。


 この高速流動する白い雲たちのように、駆け逃げ続けなくてはならないんじゃないか。


 ……誰だろう。


 誰なんだろう。このじっとりとした視線は。


 でも、この町に来てから、少し視線の質が変わったような気がする。


 と、その時――、


「っはぁ……果たして、この学校でツッコミ入れ合ったりできる関係築けるかなぁ……」


 誰かの声がした。


 声のした方を見下ろしてみる。


 男の人が居た。


 制服を着ている。


 ここの学生だろうか。


 上履きを履いていない。


 立ち尽くして、町の風景を見ている。


 どこかで、見たことある気がした。


 何度も、会ったことがある気がした。


 この男が、私をストーカーしていたのかな、と思ったけれど、何だか違うような気がした。


 ずっと昔から知ってるような……懐かしさを感じた。


 予感があった。


 私を、どこかに連れ出してくれるような。


 彼の背中に、輝く未来が映っている気がした。


 昔から、未来がぼんやりと見えることがあった。


 予知夢を見たり、デジャヴを感じたりすることが多かった。


 そういう人は、世間には結構居るってことは、どこかで聞いた。


 でも、普通じゃない気がして、嫌だった。


 私は、どうして、普通になれない。


 こんな、異常な町に送られて……。


 ここで、異常な人たちと一緒に過ごすことになって……。


 と、そんなことを考えていたら、


『本日転校してきた戸部達矢くん、紅野明日香さん。登校していましたら、至急職員室まで来てください』


 いつの間にか、時間が経ってしまっていたらしい。


 校内放送で呼び出された。


 私の他にも、誰か呼び出されてた。


 同じ日に転校してきた人が居るらしい。


 トベタツヤ……。


 どこかで耳にしたことがあるような気がした。


 それはきっと、今、私が見下ろしている彼だと思った。


 きっと、彼なら、私を抱きとめてくれる。


 予感があった。


 だから、だから私は、思い切って、その場からジャンプした。


 彼のそばを目がけて跳んだつもりが、風に流されて、


「きゃ――」


 私は小さな悲鳴を上げた。


 次の瞬間。私は彼の頭を全体重でもって思いっきり踏んでしまった。


 彼はうつ伏せに倒れ、頭をコンクリ地面にぶつけてしまった。


 どうしよう。


 怒られるかな。


 叩かれたりしたら、どうしよう。


 てか、死んでないかな。怪我とかしてたらどうしよう。


 謝らないと。


「あやぁ、ごめんなさい。まさか下に人が居るとは思わなくて」


 私は、咄嗟に嘘を混ぜて謝った。


「いててて……な、何が起きた……?」


 彼はぶつけた額を押さえながら立ち上がり……私を見た。


 目が合った。


 ちょっと、泣いてた。


 やだ、どうしよう。と私は思った。


「にしても、しょっぱなから呼び出しか~……参ったな」


 私は誤魔化すように顔を逸らしながら言った。


 何とか誤魔化せないかな……。


「…………」


 うわ、にらみつけてきた。


 どうしよう、ちゃんと謝らないと。


「……何見てんのよ。ていうか、あんた誰?」


 何言ってんの、私!


 ケンカ売ってどうするのよ。


 でも、何だか謝りたくなかった。


「俺は、今日転入してきた戸部達矢だ」


 彼は名乗った。


「へぇ、じゃあ今呼び出しくらった不良? やだこわい。近付かないでよ」


 もうこうなったら、謝らない姿勢を貫くしかない。


「お前も今、『呼び出しか~』とか言ってたじゃねえか。お前も転入生なのか?」


「ん、うん。そうだけどね。紅野明日香っての」


「紅野明日香……」


 名前を呼ばれた時、不意に、思った。


 二人で、遠くに、逃げたい。と。


 ここではない、遠くへ。


「呼び出しなんてかったるいわー。あたしは逃げるけど、あんたどうする?」


 できれば、一緒に――。


 この隔絶された狭い世界から……。


 逃げたい。


 そう思った。


  ☆



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