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最終章_4-8

 数分後。


 扉の音と共に、那美音が戻ってきた。


「ただいまー」


「おう、おかえり」

 俺は手足を縛られたままそう言った。


「いっぱい買ってきたよ。メロンパン」


「そうっすか」


 那美音は、大きな紙袋から次々とメロンパンを取り出して見せた。


「あとお茶」


 ペットボトルのお茶を取り出していた。


 そして次の瞬間!


「あっ! 達矢くん背後にゴキ○リ!」


 俺の背後を指差して叫んだ。


「何だと!」


 ゴキ○リぃ?


 俺は、背後を振り返ろうとした。


 しかし、手足を縛られてるので、うまく振り返れない。


「あっ、今、達矢くんの目の前に!」


 再び前方を向くと……。


「ひぃい!」


 目の前に、おぞましい生物の姿!


 これは、年齢制限をかけるべき光景!


「うああああああああああ! 助けてぇ!」


 俺は、じたばたしたが、手足を縛られているのとパニックでうまく動けない!


 ピンチ!


「がんばって! 達矢くん!」


 いやいやいやいや!


 助けてくれよ!


 追い払って倒してくれ!


 スパイなんだからそれくらいできるだろ!


 ゴキ○リこわい!


 助けて!


 助けてぇ!


 と、その時……。


「…………」


 那美音の手がゴキ○リを掴んだ。


 素手で。


 ――って、素手で掴んだだと!?


 何たる豪の者!


 そして次の瞬間!


 那美音はとんでもない言葉を発した。


「実はプラスチックのオモチャでしたー」


「なっ……」


 何だと。ニセのプラスチックのゴキ○リ……。プラスチックゴキ○リ。略してピージーだっただと……?


「びっくりした? びっくりした?」


 俺は……おちょくられたのか……。


 悪戯っぽく「へへへ」と笑う那美音。


 何という屈辱……。


「悔しい? 悔しい?」


「全然、悔しくなんかないぜ!」


 大嘘だった。悔しくてたまらない。


「やっぱ悔しいんだ」


 心を読まれてしまうのも悔しい!


「こんなことで驚くようでは、スパイになれないわよ!」


「――別に、そんなもんになりたくねぇよ!」


「あら、楽しいのに、スパイ」


「命を狙われてる女の言葉とは思えないな」


「スリルがたまらないのよ」


 万引き少年みたいなことを言うなよ。


 いや、だが、ここは、かざぐるまシティ。こんな変なヤツばかりなのはもう理解した。


 ここは、言わば、掃き溜めである。


「そこまで言うことないでしょうに……」


 だが、こんな悪戯を仕掛けてくるなんて、人間のレベルが低いぜ。まったく。


「なんかさ、何となくで、根拠ないんだけど、達矢くんにはソレ言われたくない」


「ふん、何とでも言えば良いさ!」


 どうせ俺は、遅刻と無断欠席を繰り返すプチ不良で、転入初日から授業に一度も出ていない馬鹿野郎だからな!


「それはそうと、メロンパン食べる?」


「お、おう……」


「はい」


 袋に入ったメロンパンを目の前に置いた。


 無言空間が広がった。


 俺は、手足を縛られているため、そのメロンパンの封を開けることができない!


「あの……どうしろと?」


「食べれば?」


「縛ってるロープを……解いてください」


「『お願いします、那美音様』と言いなさい」


「くっ……!」


 何だ、このドSな発言は。


 様付けを強要してくるとは。この町には、こういう女しか居ないのだろうか。そろそろ淑女的な女性が出てきても良いんじゃないか。


「さぁ、言いなさい。早く」


「お、お願いします……那美音様……ロープを解いて下さい」


 俺はお願いした。


「うんうん」


 頷いて、チャキっとナイフを取り出し、俺を縛っているロープを切った。


 解放される手足。


「さ、エサを食べなさい」


 俺は犬か。


「犬っていうか……達矢くん、可愛いから」


「可愛いって……」


 どうせならカッコイイとかイケメンとか男の中の男とか言って欲しいぜ……。


「いや、心のカタチが、ね」


 どういうことだろうか。


「ま、とにかく、メロンパンを食べましょう」


 そうだな。腹が減っては戦もできないし。


「いただきます……」


 俺はガサガサと那美音が買ってきたメロンパンの封を開けて、もそもそと食べ出した。


 甘い。甘い。とても甘い。


「それにしても……メロンパンだけなのか? 栄養バランスというものが……」


「そんなものは、サプリで何とか補充すれば」


「よくないぞ、そういうのは。ちゃんとゴハンを食べないとだな……」


「母親みたいなこと言うのね」


「いやしかしだな……」


「はいはい」


 生返事しながら、自分で買って来たメロンパンの封を開けて、もそもそと食べ出した。


「おいし」


「ああ、美味いな」


 一緒に、メロンパンを食べた。





 夜になって、寝ることになった。


 そりゃ夜には寝るもんだ。当たり前のこと。


 室内ではあるが、動きを奪う目的で寝袋に押し込まれた。


 もちろん、那美音の手によって、である。


 寝袋から外に出たら『首を掻っ切る』と脅された上でのものなので、いい気分はしない。当然である。


 だが……そこまでしてもらったにもかかわらず俺は眠れずにいた。


 その理由は、


「すー、すー……」「くー、くー……」


 静かに寝息を立ておって!


 ドキドキして眠れないじゃないか!


 女性が近くで無防備で寝てるんだぞ!


 しかもベッドに二人並んで!


 興奮して眠れないんだよぅ!


「ん……んんん…………うるたぁい……」

 うるたぁいだと?


 女スパイに似合わない萌えヴォイスを突然上げおって!


 ドキドキするだろうがぁ!


「ふみゅぅ……ばにゃにゃ……」

 こっちはこっちで謎の寝言!


 いい加減にしてくれ!


「…………すー、すー」

「くー、くー……むにゃむにゃ……」


「くそぅ……眠れねぇ……」


 そうして夜は更けていった。






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