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上井草まつりの章_1-1

転校一日目から

 転校一日目。サボろうとした罰でも当たったかのように、俺は、女子に()ねられた。


 うんざりするくらい険しすぎる坂を登り、風車並木を通り過ぎた俺は、転校初日だというのにうっかりサボりたくなって、校内をコソコソと移動して屋上へ向かうことにした。


 何故屋上なのかといえば、やっぱり、高いところに登ってこの町を見渡してみるべきだろう。それが、転校生が転校生として最初に行うべきイベントなのではないか。


 まったくおかしな思考だと思うが、俺は残念ながら秩序とか論理的とか、そういったものとは縁遠いアレな人間ってとこだ。


 人目につかないようにコソコソと中庭を物陰に隠れながら移動するなどして遠回り。閑散として静まり返った昇降口で靴を脱ぎ捨て放置した。階段を登り、登り、登り、登って辿り着いた屋上。


 既に開いていた引き戸から外に出ると、風が強くて、一瞬、とばされそうになる。


 もしも俺が三歳くらいの子供だったら吹き飛ばされてしまうような、そしてフェンスに打ちつけられて、「フェンスがなければ即死だった」とか言うような。


 ――って三歳の子供そんなこと言わねえだろ。


 自分でツッコミを入れてみたりして、その後で、


「っはぁ……果たして、この学校でツッコミ入れ合ったりできる関係築けるかなぁ……」


 とかって呟いてみたりして。新しい環境に対する不安がそうさせたのかもしれない。


 さて、町いちばんの高い場所にある屋上から、登ってきた坂の途中にある向日葵みたいに一定方向を向いて並んでいる風車並木やら、麓の商店街やら、湖周辺の住宅街やら、湖に浮かぶ二つの浮島だとか、この町を風の町たらしめている直線的な裂け目だとかを見た後、良い景色だなぁと思ったものの、容赦なく襲ってきた強風によって目がしばしばしちゃったりして涙出そうになったりしたんだ。


 そんな時に校内放送で、


『本日転校してきた戸部達矢くん、紅野明日香(こうのあすか)さん。登校していましたら、至急職員室まで来てください』


 なんて言われたもんだから、


 初日から遅刻で初日から呼び出しくらうとか、何かの主人公か俺は。なんて考え、さらに、これで見ず知らずのパンくわえた女の子と衝突したりしたら完璧な朝だな、とかって考えたのだが、まさにその時って感じで頭の上から女の子が降ってきて、俺の頭頂部を思い切り踏みつけやがったのだ。


「きゃ」


 とか声を漏らしながら。


「はうあっ!」


 突然の頭頂部への一撃に、俺はうつ伏せに倒れ、額をコンクリに強打した。


「あやぁ、ごめんなさい。まさか下に人が居るとは思わなくて」


「いててて。な、何が起きた?」


 俺はぶつけた額を押さえながら立ち上がり、前を見たのだが、涙で掠れた視界に制服姿の女子が居た。どうやら、その女子が少し高い所から降って来たらしい。おそらく、給水塔のある屋根部分からジャンプしたのだろう。


 ちなみに、パンはくわえていなかった。


「にしても、しょっぱなから呼び出しか~。参ったな」


 その女子は、風に短い髪をなびかせながら言った。


 立ち上がり、じっと見つめてみると、そこそこ可愛いかった。


 いや、風に吹かれているから可愛く見えたのかもしれないな。風に吹かれている女子は二割り増しくらいで可愛いく見えるからな。


 そして女子はこう言った。


「何見てんのよ。ていうか、あんた誰?」


「俺は、今日転入してきた戸部達矢だ」


「へぇ、じゃあ今呼び出しくらった不良? やだこわい。近付かないでよ」


「お前も今、『呼び出しか~』とか言ってたじゃねえか。お前も転入生なのか?」


「ん、うん。そうだけどね。紅野明日香っての」


「紅野明日香、か」


 どっかで聞いたことあるような、ないような。


「呼び出しなんてかったるいわー。あたしは逃げるけど、あんたどうする?」


 俺は紅野明日香の言葉に対して大変驚いた。


 教師陣からの呼び出しから逃げるだと、そんな思想を展開させるほどの豪の者なのか、この女。俺は、不良とはいえプチが付くほどの可愛い不良。だから、今までの人生で呼び出しにはちゃんと応じてきたぞ。すっぽかしたことなど一度も無い。もしや、この学校には、コイツみたいな突き抜けた不良が、うじゃうじゃなのか。これからの学校生活が不安で仕方ないぞ!


 そんな思考をめぐらせた後、ある結論に至る。


 まぁ、こんな不良とは関わりを持たないに限る。プチ不良は、あくまでプチ不良。実は教師の指示から大きく外れることはないのだ。


 というわけで、俺は一人で職員室へ向かうことにした。


「じゃあな」


「あ……っと、ちょっと、ま、待ちなさいよ!」


 背中の方から紅野明日香の声がしたが、聴こえないフリをして、俺は屋上を後にした。


 ここまでは、ちょっと額が痛いなってくらいで、大した問題はなかった。もっと痛いことになったのはその後だ。


 職員室はどこだろうかと歩き回ったのだが、本当に職員室の場所がわからなかった。


 焦った俺は現実逃避をしようと考え至り、廊下の窓を開け、少し強めの風に吹かれながら眼下にある大きな風車を見つめつつ途方に暮れていたのだが、しばらくそうしていると、視界の端に、何か動く物体が見えた。


 その物体がある方、廊下の角の方を注視してみると、それは長い廊下を猛ダッシュしてくる制服女子だった。


 何故猛ダッシュしているのか不明だったが、とりあえず声を掛けてみようと思った。


「あ、あの」


 しかし、


「どけぇええ!」


 その女子は猛スピードで近付いてきて、


「あの、職員室は何処――」


 言い掛けた俺の体を弾き飛ばした!


 車に撥ねられたみたいな衝撃!


「さるぼぼぉ!」


 民芸品風の叫び声を上げながら、俺は宙を舞った。


 両手両足を前に突き出しながら廊下を飛んだ。


 そして、ドサリと床に落ちる。


 痛いっ!


「ソーリー!」


 背の高い女の、反省の色が感じられない謝罪だけが、耳に残り、視界から消えた。


 これが、初日に遅刻した罰なのだろうか。


 なるほど、いきなりこんな罰をかましてくるとは、さすが牢獄と言われるだけのことはある。


 何で俺は、こんな町に来ちまったんだろうなぁ。


 いやまぁ、遅刻とサボりを繰り返したからだってのは、わかってるのだが。




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