最終章_4-1
絨毯の上。
「ぱ、パンツ!」
俺は叫びながら起き上がった。
二人の厳しめの視線があった。
後、ナイショ話をするように、
「何、今の……寝言?」
「大丈夫なのかな、達矢。精神に異常が……」
小声で会話していた。
「よ、よぉ、おはよう」
いつの間にか掛けられていた布団を取り払い、立ち上がって挨拶した。
「達矢。寝言で『パンツ』ってどういうことなの?」
何なんだろうな。俺にもわからん。どんな夢を見てたのかなんて記憶に無い。
「パンツに襲われる夢でも見た?」
いや、違う。
だが、そうだ。思い当たるのが、昨日、自分のパンツを取りに行こうと思っていて、行きそびれたという出来事。その「し忘れ行為」が、俺の深層心理下で何らかの作用を及ぼし、「パンツ」と叫びながら飛び起きるという行為に及ばせたのかもしれない。
真実は、よくわからない。
そうだな……早く自分の服を取り戻し、ごわごわした手作りブリーフパンツではなく自分のパンツ――トランクスタイプ――を穿きたいと思う気持ちに嘘は無い。それに、利奈っちから借りた服は、恥ずかしいくらいにカッコ悪いのだ。ナンセンス過ぎて、逆にオシャレと言われそうなくらいに。
「まぁ、どうでも良いわ。達矢のことなんて」
どうでも良いって、ひどいな。
「うん。えっと……それで、今日は、どうしよっか」
利奈が話題を変えて言うと、
「私は、自由行動するわよ」
紅野明日香は自由行動宣言した。
「くれぐれも――」
「あー、わかってるわかってる! ソラブネを探したりしちゃダメってんでしょ?」
「わかってるなら……いいけどね……」
そんなタイミングで本子さんは、「本子は、利奈っちと一緒に過ごしますよ」と言った。
「わかってるわよ」
「ていうか、取り憑いてるんだから、いつもいつでもそばに居るんだろ」
「そうですねぇ。離れようとしても離れられないです。利奈っちから離れられる距離は百メートル以内です。」
「厄介ねぇ」
「だが、除霊の方法が不明な以上、仲良くしていくしかないだろ」
俺はそう言った。
「そうだけどさ……」
「一緒に楽しい毎日を繰り広げましょう!」
本子さんは言って、親指を突き立ててウインクしていた。
今さらだが、つくづく変な幽霊だ。全く邪気がない。妙に明るいし。
「何なの……もう……」
利奈は言って、溜息を吐いた。
と、その時、
「むきー! また二人して幽霊さんと楽しそうに会話して! むかつく!」
紅野明日香は地団駄踏んだ。
「何なの、明日香」
「変なヤツだな」
「とにかく! 私は出かけて来るから!」
「いってらっしゃいー」
本子さんが明日香に向かって手を振った。
「おい、喜べ明日香」
「何よ」
「幽霊さんも『いってらっしゃい』と言ってくれてるぞ」
「むきー! むかつくー!」
明日香は何故か怒ってそう言って、部屋を出て行った。
残された俺と利奈と、本子さん。
「何なんだ、一体」
「さぁ」
「とりあえず、腹減ったな……」
「あ、朝ごはん、作ろうか?」
「お、利奈っち、作れるのか?」
「当り前っしょ!」
「ほう、自信あるんだな」
「女の子だし?」
この間、本を見れば料理は作れる、みたいなことを言っていたが、いつかの晩御飯が肉の塊だったという記憶もある。この朝ごはんで、利奈っちの料理スキルの真価が問われるだろう。
「でも、ごはんの前に、達矢はお風呂入ってきなよ。この間達矢が穿いてたパンツ、洗っておいたから」
「何だと?」
俺のパンツを洗ってくれただと?
何という……気の利く子だろう。素晴らしいお嫁さんになれるに違いない。
ちょっとドジで胸が小さいのは問題だが、優しい良い子なんだなとしみじみ思った。
「何よ。何か文句でもあるの?」
でも、何だってこう、この町に住む人々ってのは言葉にトゲがあるんだろうね。
「い、いえ、何も。むしろ、ありがたいです」
「じゃホラ。さっさとお風呂入ってきなさい。ごはんの用意はしとくから」
「へーい」
俺は返事して、風呂へと向かった。