最終章_3-5
さて、朝から無銭飲食未遂があったり、中華料理店で数時間労働したりした後、やって来たのは学校。
自習時間の教室。
昨晩、理科室で紗夜子と話した成果が得られなかったことをみどりに報告するためだ。
で、みどりに会って、
「――――かくかくしかじか……というわけだ」
俺は説明した。
「そうなんだ……やっぱマナカは役に立たなかったのね……」
「うん……それで、他に手がかりとか無い?」
利奈が訊くと、
「こうなれば、まつりちゃん」
とか言った。
まつりちゃん?
誰だそれは。どっかで聞いたことあるような気もする名だが。
「まつり……」
何故か、利奈っちは、その名をおそれていた。教室の机に視線を落としながら、小刻みに震えている。
「まつりってのは、一体、何者なんだ」
俺が訊くと、
「しっ、大声でその名を口にしない方が良いわ」
「えぇ? そんな、やんごとなき神じゃないんだから……名前を口にできないとは……」
「上井草家は、代々神社に仕える家だから、まぁある意味正解」
とみどりは言った。
「いや……ただ単に暴力的な大バカなだけっしょ。すぐ怒って暴力振るうから、『様』をつけて呼ぶのが無難」
これは利奈っち。
「まつり様……とか、そういう感じか?」
「そうそう。余計な摩擦を起こしたくないならね」
話を聞く限りでは、不良で変な奴であることは確かだろう。
「それで、みどり。そのまつり様は一体どこに居るんだ」
すると、みどりは周囲を見渡して、そのまつり様の姿を探し、
「えっと……学校には来てたみたいだから、どっかに居るわよ」
どっかっていってもなぁ。
とはいえ、今は自習時間だからな。教室を出てフラフラしていても何ら不思議ではないだろう。どうやらこの学校は、自習時間なら教室から出ていても敷地の外に出ていても黙認されてしまうようだからな。
「じゃ、探してみようぜ」
「……そ……そうだね」
歯切れ悪く、利奈は言った。
「ゴーゴー」
本子さんは、いつもの調子で言う。
「くれぐれも気を付けてー、危なくなったら逃げてねー」
教室を出ようとした時、背後からみどりの声が聴こえた。
そんな物騒な奴なのだろうか。