最終章_3-4
そんなこんなで、俺は午前中ずっと皿洗いに従事していた。
とはいえ、今日も学校は授業があるわけで、住人の大半を学生が占めるこの町では、朝飯時でもない中途半端な午前の時間にこの中華料理店に来る人は少ない。
つまり、俺は皿洗いの係だったが、自分たちが食べた分の皿くらいしか洗うものは無かった。
なので、利奈と明日香と一緒に少々油でベタついた店内を掃除をしつつ、女子店員さんから許しが出るのを待っていた。
「皆さん、ちょっと来て」
店員さんが無表情で俺たちを呼んだ。
頭の上にハテナを浮かべながら三人、店員さんの前に立つ。
「どうしたの? もう解放してくれるの?」
と利奈っち。
「もうお昼なので、これ」
言いながら、店員さんが指差した先には三人分のチャーハンが置かれていた。
「うちの裏メニュー。まかないでどうぞ」
「ほほう」と俺。
「ありがたいわね」と明日香。
「いえ、手伝っていただいたお礼です」
「いや、食い逃げ未遂したんだから体で払うのは当然だろうが」
「確かに」
とはいえ……お客さんが全然来なかったし出前も入らなかったので、ろくに手伝いはできなかったんだがな。
「とにかく食べて」
「よっし! それじゃいただきます!」
と今度は利奈が号令して、
「「いただきまーす」」
明日香と俺が続く。
三人、食べ始めた。
で、食べ終わった。
「美味かったな」
「うん。美味しい」
「最高」
それぞれに簡単な感想を述べた。
「よかった」
愛想なく言う店員さん。
「さて、それじゃあ、腹もいっぱいになったことだし、午後の仕事に精を出すとするか!」
こんどは俺が号令をかけ、
「おー!」「おー!」
二人が返事し、立ち上がったのだが、
「もう、良いよ」
「へ?」「へ?」「へ?」
三人して、同じ方向に首をかしげた。
「掃除してもらって、助かったから」
「もう……良いってのか?」
「だって、わたしたち、六千円近くも未払いなのに……」
「今日、してくれた掃除には、それだけの価値ある」
そうなのか……?
「普段、掃除なんてしないから」
「そ、そうなのか……。食い逃げ未遂の分際でこんなこと言うのも気に障るだろうが、した方が良いぞ、掃除」
中華店員ちゃんは無表情のまま、しかしほんの少しだけ照れたような笑いを浮かべて頷いた。
とにかく、明日香は「じゃあ、その言葉に甘えますか」と言って利奈の顔を見て、利奈は「そ、そうね。本子さんを除霊する方法を探さないといけないし」と言いつつ、俺の顔を見て、「それじゃ、行くとしますか」と言った俺に続いて、最後に本子さんが「ゴーゴー!」と言った。
そうして立ち上がり、店を出る。
「ありがとうございましたー」
利奈が、おおきく手を振りながら、「また来るかんねー」と手を振った。
中華店員さんは、これも表情無く頷きながら、「はーい」と言って小さく手を振った。
しみじみ思う。素晴らしい店だった、と。