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最終章_3-1

 目を瞑って暗い視界。耳の奥で、風の音がする。そして、頬が痛い。さすような痛みというと虫歯みたいだけど、そういうのじゃなく、頬の表面が痛い。


 何か、昨日もこんなことがあったような気がする。


 俺は目を開いた。


「あぁ、生きてた」


 目の前に見知った顔があった。


 どうやら紅野明日香が人差し指で俺の頬をプスプスと刺していたらしい。


「おはよう」


 とりあえず、朝の挨拶する。


「おはよ」「おはよー」「おはようです」


 謎の横暴女と、洞窟に住み着くサバイバル女と、幽霊と挨拶を交わした。


 つくづく異常である。何だ、この三人は。


 あぁ、いや、幽霊が一人いるので、二人半と言った方が良いかな。


 と、その時、


「ぅ……ううん……」


 明日香は空に向かって伸びをして、


「いっやぁ! それにしても、久しぶりのシャバの空気ねぇ」


 何を脱獄囚みたいなことを。


「今日からは、私も手伝うわ!」


 明日香は楽しそうに言った。


「ああ」

 返事する。


 志夏が言うには、今日から明日香は外に出て良いらしいからな。


「私の女の勘が火を噴く時が来たのよ!」


 女の勘が火を噴くって何だよ。


「ところで、妙にお腹すいてるのよね。達矢。利奈。朝ごはんにしよっか」


 そりゃ、昨日の夕方からぐっすりだったからな。腹も減るだろう。


「あ、それじゃあ中華で良い?」


 また、利奈が中華を提案した。


「また中華ぁ?」


「お金はわたしが出すから。それなら良いでしょ?」


「まぁ、そうねぇ……」


「もちろん良いぜ!」俺は親指を立てたが、


「達矢は自分で払いなさいよ」


「な、何故……利奈っち何故……」


「今日は明日香の――」


「出所祝いというやつだな」と俺は言ったが、


「ちょっと、それどういう意味よ」


 おこられた。


「いや、別に……」


「まぁ、そんなようなもんよね」


 利奈っちは笑いながら言う。


「何? また二人で結託(けったく)して私を(おとしい)れようとしてるの?」


「被害妄想だ、それは」


「うん、まぁ」明日香は自らの短い髪をいじくりながら、「なんていうか、ほら、あれよ。お腹減ってるからイライラしてんのよ」


「そうっすか……」


「本子もお腹が空きました」


「ん? 本子って、何を食べて生きてるんだ?」


「いやですねぇ達矢さん。本子、生きてないですよ」


「あぁ、そうか、そうだな。何を食べて死んでるんだ?」


「その訊き方も、どうかと思います」


「とにかく、幽霊が空腹を満たす方法に興味がある」


「実はですね……」


「実は……?」


 そして、本子さんは言った。


「――利奈っちの運を食べてるんです」


「な、何ですってぇ!」

 叫ぶ利奈。


「運……?」


「ええ、将来利奈っちにやってくるはずの幸運を食べてます。美味しいです」


「ちょ! ちょっとぉ! やめてよ! なにそれ! じゃあ、わたしの未来にハッピーが減ってるってことなのっ!?」


「ご名答です」


「うわぁ……」


 かわいそうに……。


「や、やだ! 早く成仏してよ!」


「本子だって、成仏したいです!」


「災難だな、利奈っち」


「達矢! 冷静すぎでしょ! わたしの未来が食われてるのよ? 今まで善良な幽霊だと思ってたのに! ひどい悪霊! 裏切られた気分だわ!」


「でも、同じくらいの量、将来利奈っちにやってくるはずの不運も食べてますよ。こっちはマズイです」


「あ、あ……そ、そうなんだ。ごめん、悪霊とか言っちゃって……」


「でも、明日からは、幸運だけを食べることにします。信用されてないのがむかついたので」


「やだ、ごめん! ごめんなさい」


「あははは。冗談です」


「うぅ……何よこの幽霊……」


 そんな時、浮かない顔をして佇んでいる明日香の姿が目に入った。


「どうしたんだ? 明日香」


 話しかけてみると、


「何か、蚊帳(かや)の外でつまんない」


 なるほど。


 そういや、明日香には本子さんが見えてなかったんだっけな。


「あぁ。すまんな、何か」


 とりあえず謝る。


「まぁいいけど」


「とにかく、皆で朝ごはん食べに行くぞ」


「「おー!」」


 俺の号令に二人がこたえたのが、心地よかった。


「ゴーゴー!」


 最後に本子さんが言って、俺たちは歩き出した。


 その刹那!


「きゃぁああ」


 明日香が残っていたワナにはまって、逆さ吊りになった。


 スカートを押さえながらじたばたしていた。


「助けてぇ!」


「ふぅ、やれやれだぜ」と俺。


「先が思いやられるわ」と利奈。


「達矢は、こっち見ないでぇ!」


 俺は、地面に落ちていた高枝切りバサミを手に取った。


 数秒後、


「わきゃっ」


 という悲鳴と共に、女の子が地面に落ちる音がした。




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