最終章_2-14
「ごちそうさま」
「わたしも、ごちそうさま」
いやぁ、食った食った……。
目の前には、食べ終わった後の食器が散乱していた。肉の脂が蛍光灯の明かりを受けてテラテラと光っている。
「あっ、そうだ」
言いながら、不意に利奈がパン、と手を叩いた。
「どうした?」
「達矢のためにね、色々用意しておいたのを思い出したの」
「用意? 色々……?」
「うん」
頷いて、
「歯ブラシでしょ、コップ、石鹸、熊撃退スプレー、寝袋」
「ちょっとまて。最後の方のはいらない。寝袋なんていらない」
「え? 寝袋無しで野宿する気なの?」
「また野宿なんすか……」
「当り前っしょ。無防備な二人の女の子を前にして、肉食系の君が何をすると思う?」
肉食系って! 肉食わせたのはお前だろうが。
「な、何もしないと思う」
俺は努めて男らしい顔をしつつ言った。
「するでしょ、絶対。男って、そういうものだもん」
「いやぁ、そうでもない……と思うぞ」
百パーセントの確信と自信を持って言うことはできないが。
「さて、それじゃ、寝ますか」
「そうだな。俺はどこに寝れば良い?」
「そと」
「お願いします。屋根のある寝床を下さい」
「じゃあダンボールあげようか」
「ホームレスみたいでミジメなんで嫌です」
「じゃあ我慢」
「うきゅぅ……」
「可愛い声出したって無駄。っていうか、むしろ気持ち悪い」
「すみません」
「はいはい、それじゃ、おやすみ」
俺は利奈に引っ張られて立ち上がり、背中を押されて、部屋の外に出た。
「お、おやすみなさい」と俺は言う。
「うん」と利奈の声が響く。
次の瞬間、扉は冷たく閉じられた。
寝袋に入って、考える。
今日、何をおいてもこれだけはと思ったことがある。
パンツくらい、穿きなれたものを穿きたい。
明日の朝、寮に置きっぱなしの自分の服くらいは取りに行こう。
本日の反省は、それ一点に尽きる。
明日も、頑張ろう。
何を頑張れば良いのか、イマイチわからんが……。
とりあえず、利奈っちに取り憑いてる幽霊を成仏させるのを目指そう。
よし、寝よう。




