最終章_2-13
利奈の部屋には、換気扇の回る音が響いていて、けっこう美味そうないい匂いがしていた。
着替えを終えて、外に出ると、既に夕食が用意されていた。
果たして、それが本当に夕食なのかと目を疑ったが……。
「じゃーん。どう? 美味そうっしょ」
利奈が夕食だと言うのなら、夕食なのだろう。
しかし目の前に広がるのは、ぐつぐつと煮えた鍋の中に、ブロック肉が浮かべられているのみ……。
野菜は、野菜はどこへ消えた?
ちなみに明日香はベッドの上で気持ち良さそうに寝てる。
「これ、どうやって食うんだ……?」
「え? 小皿にとって……」
小皿と言って利奈が持ち上げたのは、割と大きな皿だった。
「で、ナイフで切って、塩かけて食べる」
「は、はぁ……」
何か……男っぽい。
食材に火を通して塩つけて食うだけ……みたいな。
要するに、あれだ。
巨大なブロック肉丸ごと煮たやつ……に塩をかけて食えと。
そういうことらしい。
なんつーか、利奈っちなら、骨のついたマンガ肉とかも、何気ない顔で作りそうだな。
「お米たべる?」
「食べます」
そして、目の前には……ガスコンロにかけられた『真の肉鍋』と呼ぶに相応しい肉鍋、炊かれた御飯が敷かれた皿、フォーク、ナイフ、塩、そしてお茶の入ったコップが並ぶ。
彩りの無さを嘆きたい。
「だが、いただきます」
「私も、いただきます」
そして、食べ始める。
ナイフで肉を切る。塩をかける。食べる。
「どう? 美味いっしょ」
「肉の味がする」
「そりゃ、肉だもん」
まぁ、そうだが……。
「あ、もしかして美味しくない?」
「いや……」
「あっ、しょうゆ派?」
そういう問題なのか……?
「いや、美味いが……」
「美味いが……何? ケチャップ派?」
「何と言うか……男の料理って感じだ」
「宮島家に代々伝わる伝統料理なの、これ」
「何か、石器時代みたいだな。洞窟で肉のカタマリ食ってると」
「バカにしてんの?」
「い、いや、伝統を守るというのは素晴らしいことだよな」
「わたしは、美味しいと思うんだけどな……」
「いや、美味いぞ」
「本当に?」
「ああ。良い肉だ」
俺はそう言った。
「何だか、ゴーカイですね」と利奈の背後から本子さん。
そうだな。口に出しはしないが、俺は、繊細な、女の子らしい料理を作れる子の方が好きだ。
「あ、どんどん食べて。いっぱいあるから」
まだ火を通していないブロック肉を見せ付けてきやがる。
「お、おう……」
胸焼けしそうだな……。
だがまぁ、動物性タンパク質だからな。力は湧いて来そうだ。
でもなぁ、それにしても肉だけってのは偏りすぎだろう。いくらなんでも。