最終章_2-2
しばらくして。
「こにちわー」
エプロンをつけた女の人がこちらに向かってぱたぱたとやって来た。
手には、配達用の岡持ちを持っている。
「あれは……?」
「中華の出前」
利奈が言った。
「チャーハンセット三つ、おまたせしましたー」
中華料理店の店員さんらしき女の人は、そう言って、利奈の姿を探したのだろうか。キョロキョロした。
「おーい、こっちこっちー!」
手を振る利奈。
「あ、はい」
店員さんは、利奈の姿を認めると、ぱたぱたと走り寄ってくる。
そして、
「あいやぁ!」
ワナにはまった。
「ああっ……なんてことっ」
逆さ吊りになる店員さん
それでも岡持ちをひっくり返さないところには、プロ意識を感じるぜ……
――って、そんなことを冷静に考えている場合ではない。
店員さんを助けなくては!
俺は、高枝切りバサミを持って歩み寄り、
「はやく、ロープを……」
落ち着いた声で言った店員さんの足に絡み付いていたロープを、
「はい! 切ります。いきますよ。三、二、一……」
じょき。
切った。すると、店員さんは地面に手をつくこともなく、くるっと回転しつつ、すとっと綺麗に着地した。どことなく雑技団っぽい。で、岡持ちを開けて、中身の無事を確認し、
「ハイーっ」
手品が成功しましたアピールみたいに言った。
「おー」
ぱちぱちと拍手する利奈。
「1,440円です」
そして落ち着いた声で料金を請求。
すると利奈は、岡持ち内部からチャーハンセットが載った三枚のお盆を引っ張り出しながら、驚くべき言葉を発した。
「達矢、払っておいて」
「――何だと?」
俺の財布の中身は三千円程度。
その約半分を差し出せというのか。
店員さんも俺の前に歩み寄り、無言で両手を揃えて差し出してきた……。
くっ、仕方ない……。
俺は、財布を取り出し、彼女の手に千円札と五百円玉を置いた。
店員さんは六十円のお釣りを岡持ちにくくりつけてあったブタさんの顔の形をしたポーチから取り出して俺の手に渡すと、
「ありがとうございました」
ぺこりと深く頭を下げて、チャーハンセット三つを吐き出して空になった岡持ちを手に取ると、小走りで去っていった。
「さ、それじゃ朝ごはんにするよ」
「お、おう」
二人、チャーハンセット三人前を手に洞窟に入った。