表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/579

紅野明日香の章_4-4

 寮の玄関まで来た。


「よし、行くぞ……」


「うん」


「監視されてる気配はあるか?」


「今のところは、無いよ」


「そうか」


 持ち物は、無い。


 二人、寮の門を抜け出た。外は大雨から小雨に変化していた。パラパラと、感じないほどの雨。雷鳴もなくなった。着の身着のままで二人、歩く。手ぶらで。闇に紛れるように黒い服の二人。俺は今朝から黒い服。紅野にも黒い服を渡して押入れの中で着替えを命じたのだ。


 まぁ、多少ブカブカのようだが、腕まくりで何とか対処しているようだ。制服のままだと目立ちすぎるからな。


 あ、これは断じてペアルック目的ではないぞ。


 隠密行動=黒い服。


 これはもう、雰囲気づくりも含めて暗黙の常識みたいなもんだ。


 透明になれる服とかあれば別だが。


 で、早歩きでもなく、遅歩きでもなく、標準速度。怪しまれないスピードを心がけた。正確に言うと、心がけたつもりだった。それでも少し早くなってしまうのは、やはり焦燥感みたいなものを感じているからなのだろうか。


「ちょっと、達矢。はやいよ」


「あ、あぁ。すまん」


「…………」


 彼女は、ぺったりと腕にしがみつきながら身を寄せてきた。


 しかも震えている。小刻みに。


「寒いのか?」


 彼女は小さく首を横に振る。


「じゃあ、見られてる感じか?」


 今度は大きく頷いた。


 さて、どうしようか。


 まぁ、ここは一択だな。これしかない。


「じゃあ、走るぞっ」


「うん、言うと思った!」


 手を繋いで、二人、走った。


 街の南側を目指して。


 ショッピングセンターの裏側。そこにあるトンネルから、抜け出すために。


 走る。手を繋いで。揺れる視界。


 何度も振り返りながら。


「達矢!」


「何だよ」


「何でもないっ!」


 叫ぶように、わけのわからない会話。


 俺たちは、これから、旅に出る。この街を出る。


 可愛い子には旅をさせろという言葉もあるしな。


 可愛い紅野と二人旅……か。


 まぁ、悪くない。


 なるようになるだろう。


 大船に乗った気でいてくれ、なんて気休めを言えたら良いのだがな。正直なところ不安で仕方ないっつーか、かざぐるま行きになるような男女二人が、街の外に出たところでマトモに生きられるかと言われると、きついと思う。現実的に。


 大船? 泥舟だろう。どちらかと言えば。


 俺たちは、絶望的なまでに子供で、もしも、このまま生きていくと言うのなら、多少の悪には手を染めてしまいかねない。というか、高確率でやらかす。そのくらい、俺は弱かった。そう、かざぐるまシティ住民相応に。まぁ、たいがいに人ってのは弱いけどな。


 俺は短絡的で、無軌道で、幼い。救えないバカでもある。これから先、学ばねばならないことが多すぎる。つまり、だから、この街を出ないというのが比較的正しい選択。のはずだ。でも、俺の予感は告げている。紅野の予感も告げているだろう。


 ――この街を、出て行かないと何か良くないことが起こる。


 漠然とした不安を無理矢理カタチにしたいのかもしれない。それを動機にして、理由にして、逃避したいのかもしれない。現実めいていて、現実感の無いこの街から。


 疑惑、舞う。


 でも、それ以上に確信めいた何かが心の中にあって、俺に紅野との脱出を決断させた。いや、それは後付の理由かもしれない。よくわからない。


 でも、感じるんだ。


 昔の人は言った。「考えるな、感じるんだ」と。


 なんかアツいセリフだよね。


 いいじゃないか。こういうのも。


 成功するかどうかは不明だが、どう転んでも価値があるんじゃないかって考えよう。


 今の今までいい加減に生きてきて、更生しようって時に、こんな考えを抱くなんて、俺は心底腐ってるのかもしれないが、何度も言うように、これは理屈じゃない。


 圧倒的な、予感。今の俺を動かす八割は、それだった。動機にしては弱いように思えるが、こいつはやっぱり理屈じゃない。とことんフィーリングに生きるんだ俺は。


 とにかく、泥舟でも漕ぎ出せば、沈むとわかっている島に留まるよりは可能性が広がるってことだ。本当に沈む島なんてあるのかどうかは、不明だけどな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ