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最終章_1-4

 闇の中、燭台の明かりだけを頼りに歩く。


 地下だからだろうか、肌寒かった。


「なぁ明日香ぁ」


「何?」


「俺、ケイビング(洞窟探検)の知識とか無いけど、大丈夫かな。用意すべき道具とか装備とかも洞窟探検するにはずいぶん危ういように思えるんだが」


「大丈夫、私はスペランキングの知識あるから」


「そうか」


 スペランキングってのは何だろう。


 よくわからんが、明日香は自信満々に言ったし、任せてみても大丈夫そうだ。


「それに、未開の洞窟ってわけでもなさそうじゃない?」


 確かに、足元は天然の洞窟とは到底思えないほど綺麗に整備されていて凸凹(でこぼこ)も少なく、階段まであった。


 誰かが定期的にやって来ているような感じはする。


「ふーふっふふふふふるーるーるっるるー♪」


 小唄交じりに階段を降りていく明日香。


「な、なぁ、明日香」


「なに?」


「ラ、ランプの燃料は大丈夫か? 突然火が消えたりしないよなぁ?」


「大丈夫大丈夫」


「酸欠とかになったりしないかなぁ」


「心配しすぎよ」


「そうか……」


 と、その時、フッと火が消えた。


「たんたたんたたんたらんたらったったー♪」


 暗闇に、明日香の声が響く。


 何その、ゲーム内の主人公が一機死んだみたいなメロディ。


 ていうか、闇、コワ!


「うぁああ。暗いよぅ。こわいようぅ。ランプの燃料大丈夫って言ったじゃないか!」


 俺は、情けなくも、紅野明日香の腕を抱いた。


「ちょ、ビビりすぎでしょ! それでも男の子?」


「暗闇は、とてもこわいものだぁ!」


「大丈夫大丈夫。ペンライトあるから」


「――って、ライトあるんかい!」


 俺はツッコミを入れた。


 手の甲が、かたい感触に弾き返された。


「きゃぁああ! ど、どこ触ってんのよ!」


「え、今の、どこに触ったんだ? 腕? 顔?」


「……胸なんですけど……」


 光ない世界だから、本当かどうかわからんが、


「胸にしては……かたい……」


「……ねぇ、あんた置き去りにしてこの洞窟出て行って良い?」


 おこられて脅された。


「ごめんなさい」


 頭を下げたところ、


 ガンッ!


「ふぁっ」


 明日香の声。何かが俺の頭にぶつかった。


「痛ったぁああ……」


 何やら痛がっている。


「あ、すまん……もしかして、頭突きしちまったか?」


「あんたって……」


 明日香は呟いたが、何かを言おうとして飲み込むと、溜息一つ。後、ペンライトのスイッチを入れたらしく、世界がパッと明るくなった。


 少し明るくなった世界で、明日香の胸をじっと見てみる。


 女性としては残念な胸だった。


「……何見てんの?」


「いや、胸をだな」


「……やめてくれないかな。セクハラ」


 言われてみれば、セクハラかもしれない。


「申し訳ない」


「あと、明るくしたんだからもう腕いいでしょ。離して」


「お、おう、すまん……」


 紅野の腕にまとわりつかせていた腕を離した。


 するとその次の瞬間!


 またしても世界は闇に包まれた。


 明日香がペンライトを消したのだ。


「では、さらばっ!」


 言って駆け出す音がした。


「ナニィ! どういう意味だぁ!」


 紅野明日香が石の階段を駆け上がっていく音が響く。


 そして何と、やがて聴こえなくなった。


「うぉおおおおおい! くらああああい! たすけてぇえええええええええええええ!」


 俺は叫んだ。


 しかし、それは悲しくもエコーを返すだけ。


 そんな……そんな……こんなことって……。


 明かりのない世界に、置き去り独りぼっち……?


 視覚と聴覚を遮断された世界に、置き去り独りぼっち?


 こわい! これは、恐ろしい話ですぞ!


「明日香ぁあああああああああ!」


 返事が無い。


 キーンという音とエコーだけが響く。


「あぁあ……」


 俺はその場にうずくまり、四つん這いになった。


「誰かあああ、誰か助けてぇ!」


 俺が犬の遠吠えのようにして叫ぶと、


「ならば、誓いを立てなさい」


 何処からか、天使か女神かというような声が響いた!


 よかった。


 この漆黒の闇に包まれた世界にも、人が居てくれた!


「誓う! 誓う! 何でも誓うから!」


 俺は言った。


「では、これから、私に絶対の忠誠を誓い、私の言うことには何でも従うこと」


「はい! 忠誠を誓います! 何でも従います」


「ふぅん……今の言葉、本当?」


「本当です! 天使さま!」


「天使って……あんた、大丈夫?」


「ダメです! 救いを、救いを下さい! 愚かなワタクシめにぃいい!」


「……な、なんか、大丈夫?」


「ごめんなさい、もうセクハラしません。逆らいません。悪いことしません! 暗闇独りぼっちにしないで下さい! ごめんなさい!」


「え、えっと、それなら……そんなに謝るなら……もう許すけど……」


 その声の後、ぱぁっと世界が光を取り戻した。


「おぉお……光が……光が、見える……」


 そして、頭上、その光の向こうには、紅野明日香が立っていた。


「明日香ぁああああ!」


 俺は階段を数段駆け上り、明日香に抱きついた。


「ちょ、ちょ、何よ……そんなにこわかった?」


「こわいに決まってんだろォ!」


「何かトラウマでもあるの? 闇に対して」


「トラウマなんか無くたって、真っ暗なところは、こわいだろうが!」


 でも、そうだな……何か、闇というものに嫌な思い出があるような気もする。どんな思い出だったかは、思い出せないが……。


 昔は、こんなことはなかった。この町に来る前には、暗闇をこわがるなんていうことはなくて、闇を怖がる友人を、バカにしているくらいだったのにな。


「ふぅん……」


 明日香は無関心そうに言った。


「とにかく、俺を置いて行こうとしないでくれぇ!」

 俺は叫んだ。


「わかったわ。ごめんね」

 頭を撫でられた。やさしかった。うれしい。


 飼い主に褒められるイヌの気持ちが、すごくわかる気がした。


「とにかく、先に進もうか」


「おう」


「手でも繋ぐ?」


「ああ繋ぐ」


 差し出してきた手を繋いだ。


 そのままライトの明かりをたよりに階段を下った。




※スぺランキング:装備や知識を整えない無謀な洞窟探検のことをこう呼ぶ場合がある。

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