最終章_1-1
一日目から。
ずっとずっと、思っていた。
遠くに行きたいって、思っていた。
でも、こんな所には、来たくなかった。
私の耳にはただ、風車が回るような音が鳴り響いている。
どうしてこんなことに、なったのかな……。
どうすれば、よかったのかな……。
でも、でも、だけど……。
☆
朝、険しい坂の道を登る。
登っても登っても、学校に辿り着かない。
くるくる反時計回りの三枚風車の羽が回転し、キィキィと今にも壊れそうな鈍めの音を立てている。メンテナンスなんて言葉を知らないかのようだ。
進む俺の両側をゆっくりと流れる景色は、草原と真っ白で質素な風車の円柱ばかり。
いったい、どれほどの風車を追い越せば、あの白い建物にたどり着くのだろうか。
そろそろ俺の足も疲れてきた。
「あー、サボりてぇー……」
思わず呟きも漏れるというもの。
この坂を登らないと学校に辿り着けないなんて、なるほど、引っ越す前に居た学校のクラスメイトに同情されるわけだ。
この町は、町の外の人間からしてみたら、牢獄みたいなものなんだそうだ。
そこそこに開放感のある景色(全然開放的ではないが、そう思わないとやっていられない)と、絶え間なく吹く強い風からは考えられないな。
俺のようなプチ不良を更生させるために、この険しい山に囲まれた町に強制転校させる制度が生まれ、その制度の網に見事に引っ掛かる形で俺はやって来た。
つまり、俺はプチ不良。
周囲を絶壁の山々に囲まれているが、一箇所だけ開けていて、その隙間から海からの強風が吹き入っている。
まるで火口やクレーターのような地形とも言える。
地図で見ると、ちょうどアルファベットの「C」のような形に見える感じだ。
垂直に切り立った崖の隙間から入ってきた風は山の斜面を駆け昇り、斜面に並木のように並べられた風車の羽根をくるくる回す。
風車は全て同じ方角に向いていて、常に一定方向に風が吹いているのだという。
つまり「C」の右側の隙間部分から規格外の強風が入り、坂を登って山の向こうやら山の上へと吹き抜けていくわけだ。
風を受けて夜も休まず回転を続ける風車群から付いた俗称は、
『かざぐるまシティ』
だが、そんなことよりも今は、俺の背中を押してくれる追い風がうれしい。
アスファルトの足元を見た後に顔を上げると、俺が今日から通う学校が見えた。
そして……次の瞬間、チャイムが鳴った。
「げぇ、やべぇ、初日から遅刻ってベタすぎるだろ……俺……」
というか、道理で周囲に学生服を着た生徒の姿が無いわけだ。
まさか見えている場所に登校するのに、これほど時間が掛かるとはな。完全なる計算ミスで記念すべき初遅刻を記録することになりそうだ。まぁ、俺くらいのプチ不良ともなれば、遅刻なんてお手の物だぜ。
って、威張って言う事じゃないんだけどな。
あれだ、人並みの人間である俺は、転校初日の緊張に震え上がりそうなんだ。
だから空威張りしたい気分になった、とそんなところだ。
さて、遅刻した自分を正当化し納得させたところで、ようやく学校の門の前に辿り着いた。
見上げれば、白ペンキを塗ったような真っ白な校舎が見える。
さてどうしようか。もう遅刻は確実なのだが……。