幕間_12_逆方向に回る世界
巻き戻っていく世界があった。
オレンジ色の渦の中へと、飛び込んでいく。
霞んだ視界。
高濃度の水蒸気の中に居るみたいに、息苦しい。
次々に通り過ぎるいくつもの物体は、壊れていった町の欠片だろうか。
全力で「予定通り」を阻止したい私は、未来を変えようと必死だ。
きっとどこかに、それを応援してくれている誰かが居る。
そう信じて、何度も何度も、巻き戻す。
巻き戻しは、もしかしたら有限の使用回数を持つ行為かもしれない。
巻き戻すたびに、悪い方向に世界が進んでしまうかもしれない。
不自然を行うことによって、壊れてしまう何かが、外れてしまう何かがあるかもしれない。
改変の皺寄せが、誰かの不幸というものに形を変えて発現してしまうかもしれない。
それでも、自分勝手だとは思うけれど、私は、変えたい。
見たくはない。私が居るこの町が、何度も何度も壊れることを。
じゃあ、巻き戻さなければ、もう二度と壊れることもないんじゃないかって?
そういう見方もできなくはないけれど、でも、それは違う。
町は、町であり、町は人である。
ここで暮らす人々が、私のことを忘れていても、私が何者なのかを知らなくても、多くの人が繋いできた営みを、見捨てることなんてできない。
だから、何度でも。何度でも。
何度でも――。
渦を抜けると、やがて、闇があった。
ここから、再構築が始まる。
もう一度、もう一度。
まだまだまだまだ何度でも。
うまくいくまで、何度でも。
見慣れた闇に手をかざす。
風が吹いた。
下に水たまりができた。島ができた。山ができた。いつのまにか人がいた。
商店街、病院、学校、何基もの風車、図書館、ボロい男子寮、きれいな女子寮。ショッピングセンター。
私は空を飛んでいた。
坂の途中に、ゆっくりと着地する。
元に戻った世界の真ん中、始業を告げるチャイムの音。
動き出した世界。髪を揺らす強い風。
この商店街のある坂の途中で、まず最初にすることは、消去だ。
前の世界の悲劇の『記録』を消去すること。
いつものように、巻き戻されないボイスレコーダーがあった。
絶望の悲鳴とか、崩れ落ちる失望の音とか、そういうのは、いらないから。
でも、目を背けても、いけないから。
ちゃんと、もう一度耳に入れてから、消していく。
前の世界から、引き継ぎたい声だけ引き継いで、二度とゴメンな声は消していって。
私は歩き出す。坂の上にある学校へ。
風車が回転を続けている。
生徒会長の仕事なんて最近めっきりサボってる。
この新しい世界では、どんなものが生まれるだろう。
何か停滞を打開するキッカケがあれば、嬉しいけれど。