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逃避行の章_4-3

 まだ昼間の三時くらいなのに、立ち込めた暗雲によって世界は暗かった。


 あるいは、強がって「大丈夫だ」なんて格好つけた俺の本当の心境が世界を暗く見せてしまっているのかな、とも思える。


 雷は止んだみたいだが、強い雨は弱まる気配を見せない。


 時折襲ってくる強風が雨粒を俺たちの顔に直撃させ、その度痛みと少しの恐怖感に声を上げる。


 雨の中、傘も差さず、誰の見送りもないまま、俺たち二人は外に出た。


 荷物をまとめろと言われたので、背中には服とかがいっぱい入ったリュックを背負う。


 あっという間にずぶ濡れになってしまい、特に雨宿りできる場所もなかった。


 ブラブラと目的地なく歩きながら話す。


「本当にいいのか? 女子寮に戻んなくて」


「うん……」


 びしょ濡れの紅野明日香は、俺と一緒に居たいらしかった。


 それは別に、俺が好きだからとか、そういうわけじゃなくて、誰かに襲われそうだから一人になりたくないってことと、俺が退寮処分くらったことに対して責任を感じてしまっているという二つの理由からなんじゃないだろうか。その可能性が高いと思う。


「私たち、どうすれば良いかな、これから……」


「そうだな、まずは、雨風を(しの)げるところにでも行くか」


「つきあうよ」


「そっか、お前がそうしたいなら、一緒に行くか」


「ごめんね」


「まぁ、仕方ないさ。こうなる運命だったんだろ」


 しばし互いに無言。あまり心地よくないタイプの沈黙を破ったのは、明日香だった。


「達矢。どこ、いこっか」


「そうだな……」


 学校や図書館なんて良いかもしれない。それともまずは笠原商店に傘でも買いに行くか。あるいは、あんまり気が進まないけど上井草まつりを頼ってみるとか……。


 色々考えたのだが、俺はふと閃く。


 昼間に会った若山との会話を思い出していた。


 本当かどうかは定かでないが、彼の話ではショッピングセンターの地下に外の世界と繋いでいるトンネルがあるらしい。


 もしも、紅野明日香が町の外に出たがってるなら、この際だ。挑戦してみるのもいいかもしれない。


 脱出しようとして捕まったからって別に殺されたりまではしないだろうしな。


 それに、単なる明日香の被害妄想の可能性もあるけれど、本当に明日香を狙っている人間が居るのならこの町から離れないと危険かもしれない。


「抜け出すか。この町を」


「……えぇっ!?」目を丸くした後、呟くように、「でも、どうやって……」


「とりあえず、トンネルがあるっていうショッピングセンターに行くぞ」


「ショッピングセンター? こんなにずぶ濡れなのに?」


「まぁ、何とかなるんじゃねぇかな」


 というか、明日香ちゃんの白い制服がちょっとスケてる件について、俺はどうすればいい。


 何だかドキドキしちゃうんだが。


「ん……何よ、そんなにじろじろ見て。私の胸に何かついて……っ!」


 しまった、気づかれたか!


「見ないでよ! いやらしい!」


 上目遣いで胸の前で腕をクロスさせ、身を守る姿も、なんだか俺をドキドキさせてくれた。


「お前って、結構かわいいよな」


「なっ! な、何言ってんの、いきなり!」


 顔を真っ赤にしていた。


「わ、私はあんたのことなんて別に、別にって感じなんだからね!」


「わかったからとりあえず行くぞ、ショッピングセンターに」


「うぅぅぅ」


 なんだか恥ずかしそうに声を出した明日香の手をがっちりと掴み、


「うぇぁ!?」


 などと裏返った声を出し始めた様子のおかしい明日香を引っ張って、歩き出した。




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