アルファの章_6-4
古代兵器って何だ!
「上空、風速四十一……渦の速度……目視で何とか……あれが遮蔽物になって……風が止むとしたら……」
ブツブツ呟くアルファ。
「アルファ……」
「何してるの! 逃げようってば!」
みどりが叫ぶ。
「逃げない……戦う……」
アルファは、本気だった。
「何なのよぅ!」
慌てるみどりに、俺は言う。
「アルファに任せよう」
「そんなペットボトルのロケットで、何ができるって言うの!」
それは確かにそうだ。みどりの言う通り。
でも、こんな巨大なものがすぐ近くで落ちたら、逃げ場なんて無い。何処に逃げるって言うんだ。逃げてる途中で落ちて、俺たちは助からないじゃないか。
だったら、もしかしたら、奇跡が起こるかもしれないなら、その可能性に賭けたい。
「射線、角度修正。仰角に4度」
ロケットはまっすぐ、謎の石の方に向いた。
逃げ出さないという選択は、パニックで冷静な判断ができてないのかもしれない。
でも、理屈じゃない。
突如上空に現れた謎の渦から、謎の石が落ちて来ている。
こんな科学的じゃない非現実現象が起こっているのだから、もしかしたら、アルファのロケットで渦から出現した謎の石を粉砕できるかもしれない。
あるいは、押し返せるかもしれない。
今、目の前に広がるのは、マトモな物理法則がどうのこうのという世界の話じゃないような、そんな風景だ。
それに、アルファの想いの強さはホンモノだ。
何よりも俺は、そんな想いを乗せたロケットが飛ぶのを見たいんだ。
「……風が止む……3、2、1……」
そして、
「飛べぇえええええ!」
アルファは、声と同時に、スイッチを押した。
水の飛沫が暴れまわる。
高速で発射されたロケットは、風の隙間を塗って失速することなく謎の石へ向かう。巨大な鍵は、もう真上にまで来ている。
しかし、アルファのロケットは、あと少しというところで失速していく。
「当たれぇえええええええええええ!」叫ぶアルファ。
「いけぇえええええ!」俺も力の限り。
「お願いっ」みどりも願った。
次の瞬間、ロケットが加速した。
そして、謎の石にぶつかる!
――ポコン。
きっと、そんな音がしただろう。
たぶん、軽い音。
「…………」「…………」「…………」
ゴゴゴという轟音と、風の音が邪魔で、よく聴き取れなかったけれど、たぶん、そんな……。
アルファのペットボトルロケットは、確かに謎の石に触れた。
でも、何も起こらなかった。
「アルファ、あれが落ちたら……どうなる?」
「あの質量だと、一帯、吹き飛ぶ。星の生き物が、いっぱい死ぬ」
「そんな……」
俺は絶望した。
「…………そっか……」
みどりも、諦めたように言った。
「ごめんなさい……また……守れなかった」
涙を流す、アルファ。本当に、悲しそうに。
「アルファのせいじゃない。よくわからないけど、アルファのせいなんかじゃないよ」
震えるみどりは、震える少女を抱きしめた。
「おにーたん……」
「ああ……俺こそ、ごめんな。何もできなかった」
「あたしも、ダメダメだった……」
みどりも、悔しがっていた。
「ソフトクリーム、おいしかった」
「ああ、俺の人生、ここで終わりかぁ……何だったんだろ」
学校サボりまくって、遅刻して、風車の街にやって来て。
で、紅野とか、まつりとか、みどりとか、アルファと出会って……そこそこ楽しい日々が、待ってると思ってたんだけどなぁ……。
しかし、その時だった!
「諦めるのが、早いのよ!」
声がした。
忘れていた。その存在を。
振り返れば、炎上する学校を背に、級長の伊勢崎志夏がそこに居た。
「志夏?」と俺。
「級長……」とみどり。
「だれ……?」とアルファ。
「私は、神」
志夏は言った。力強い口調で。
こんな時に、何言い出してんだ、こいつ。
「見てなさい。最後の最後まで、執着するっていうのは……こういことよ!」
志夏は言うと、大空高く舞い上がった。生身で。
「ええええ?」
何これ!
夢?
まさかの夢オチが待ってるのか!
何だこれ。わけが、わからない。
「おぁああああああああああああああ!」
大声。高い声。サイレンのようですらあった。
そして、オレンジ色の光を纏って、志夏は謎の鍵型隕石に突進した。
渦の中へと押し返そうとする。
「おああああああああぁぁぁああっ!」
苦しそうな声を上げる。
俺たちは、その光景を口をぱかりと開けながら見ているしかなかった。
「ダメか、やっぱ、押し返せない……」
志夏の声が、風に乗って、俺の耳に入ってきた。
「くっ、せめて、落下地点を……できるだけ……遠くに……」
「志夏!」
俺は言う。
「お願い! 神様っ……級長に力を貸してぇ!」
みどりは言う。
「私がその神様なんだけどな……」
空から、そんな声。
「志夏!」
もう一度、俺が叫ぶ。
「達矢くん! 笠原さん! アルファ! 逃げて!」
志夏の叫び声が、風に乗って届く。
「級長!」
みどりも叫ぶ。
「できるだけ、高い所へ――!」
また志夏の声がした。
「し――」
俺がまた、名前を呼ぼうとしたその刹那。
鍵型隕石は海に落ちた。落ちたかと思ったら、大きな揺れが襲った。山の間から大波が押し寄せてきて、何の言葉を発する暇も無く、何が何だか、わけのわからないまま……俺の視界は、暗転した。
【つづく】