アルファの章_6-2
午後。
時間が来た。
湖の前で待つ俺とみどり。
「大丈夫かな……アルファちゃん」
「さぁな。さっき声かけた時には起きてて『最終調整してから行く』とか言ってたから、もうすぐ来るんじゃないかな」
そう言うと、みどりが、
「あ、そうだ。戸部くん。避難勧告のこと、知ってる?」
不意にそんなことを言った。
「ん? ああ、志夏が言ってたな。そんなこと」
「もう午前中に皆、避難したらしいよ」
「え、まじっすか……」
「でもね、安心して。不発弾なんて無いんだから」
「ああ、志夏もそんなこと言ってたな……」
「まつりちゃんと級長に無理言って居残りさせてもらってるけどね、この対決が終わったらすぐに、避難しようね」
「まぁ、そうだな」
「……何か、気になることでもあるの?」
「いや、至極普通の疑問なんだがな、不発弾が無いってのがわかってるのに、何で避難することになるんだ?」
「それは……何か、ウラがあるんじゃないの? あたしは、よくわからないけど」
「そうか……」
ウラねぇ。
何だろうな。
と、そんなことを考えながら抜けるような青い空を見上げた時だった。
「おにーたーん! みどりー!」
ツインテール銀髪少女が三分の一くらいまで水が入ったペットボトルロケットと自転車の車輪に空気を入れる時に使う空気入れを抱えて登場した。
「おにーたん……って……?」
やめてくれ。じとっとした目で見ないでくれ。
「いや、俺が呼ばせてるわけじゃないぞ。決して! アルファが勝手に呼んでるだけだからな! 勘違いするなよ!」
「ムキになって否定してるのが怪しいところだと思う」
「本当なんだって!」
「どうだか……」
ああ、もう。どれだけ弁明しても、実を結ぶことは無いんだろうな。
俺はもう言い訳を諦めて、銀髪少女に話しかける。
「アルファ。どうだ? 出来は?」
「わかんない」
「わかんないって……」
何か、工作キットとかでありそうな感じのペットボトルロケットが完成しているが。
「だって、理論上は、これで飛ぶはずだけど、実験も何もしてないし、湿度も、風も計算できてない。これじゃ、また失敗しちゃう」
えっと、「また」って何だ。以前にも失敗したことがあるのか?
つーか、ペットボトルロケットなんだから失敗しても大した被害にはならないだろうに。
何をそんなに恐れることがあるんだ。
と、そんなことを考えた時、
「あ、来たわよ! 宮島さん」
みどりが指差した先には、ムキムキな男のシルエットと、それに続いて歩いてくる髪の長い女の子と身の丈を遥かに超える巨大なロケット。宮島さん親子も身長高めだが、それを遥かに越える巨大ぶりだ。
「で、でかいな……」
「うん、でかいね……」
「待たせたな」
「はぁ。すごいっすね……」
俺はロケットを見上げて言った。
「そうだろ。ワシの可愛い娘だ」
そっちじゃねぇよ! ロケットだよ!
「滑らかな曲線ですね」みどりは言った。
「それはロケットだ! 娘はこっち!」と宮島さん。
どうやら、けっこう娘ラヴな男らしい。
「いやぁ、立派だ」
俺はロケットを見上げながら言った。
「ありがとうございます」と、宮島さんの娘は言った。
いや、あなたのことは褒めてないです。
「マリナ」
みどりが、その子に声を掛けた。マリナちゃんという子らしい。
「あ、サハラ。久しぶり」
サハラ?
何だサハラって。
ああ、もしかしてカサハラのサハラ……かな。
「やだぁ、ホント久しぶり!」
みどりがはしゃいでる。
「うんうん!」
二人でキャッキャしていた。
「さて、そんなことよりも、さっさと勝負を済ませて、避難しよう。それと利奈は先に上井草んとこの娘の所に行ってなさい」
「う、うん。それじゃあ、わたしはこれで。サハラもパパも、その……気を付けてね」
気を付けてって……何か危険なことがあるのか。
「それじゃあ、バイバイ」
言って、カクンと頭を下げた後、逃げるように走り去っていった。
「何なんだ、あの子……」俺は呟き、
「幼馴染で、ちょっと変わった子なの」みどりが答えた。
「そうなのか」
まぁ、この街は一風変わった人しかいないからな。
「さて、それじゃ早速勝負っていうのを始めて欲しいんだけど……勝負って、どうやるんですか?」
みどりが訊くと、
「そういや、勝負の方法を詳しく決めてなかったな! どうする、ファル子」
ムキムキがそう答えた。
「高く、飛んだ方が勝ち」
とアルファ。
「よし、それで行こう。同時に飛ばすか? それとも、順番に?」
「おにーたんが決めて」
「えっ。俺?」
何故俺が、そんなのを決める役目を……。
「責任重大ね」
「こらこら、みどり。わけのわからんハードルの上げ方をするな」
「ふふっ」「ふはははっ」
みどりと筋肉男宮島は笑った。
何なんだ、こいつら。
「じゃあ、順番に飛ばそう。宮島さん先攻でどうでしょう……」
俺はそう言った。
「よし、わかった! 先陣は任せろ。後に続けよ、ファル子」
「うん」
頷いていた。
敵同士、というよりかは、同志、みたいな感じだな。
二人ともロケット好きだから、通じる何かがあるのだろうか。