アルファの章_5-5
風車の下の草原等でアルファと戯れているうちに、夜になった。
子供らしく、既に眠そうにしている。
「さて、アルファ。間もなくお楽しみの花火だぞ」
「うん」
「さぁ、点火するわよ!」
まずは景気づけに、一番でかい花火を。
みどりが、その筒に繋がる導火線に火を近づける。
「…………」「…………」「…………」
あれ?
点かない?
「湿気ってる……」
「な、何だとっ」
じゃあ花火は花火として花火になれないではないか。
「他のは、どうかな……」
みどりは、他の花火も試してみる。
「…………」「…………」「…………」
ダメだった。
線香花火にすら、火がつかない。
ことごとく湿気にやられてる。
いつの花火なんだ。パッケージは結構色落ちしてたように見えたから、嫌な予感はしてたけども、まさか年単位で入れ替えてないとか、そんな感じなのだろうか。そうだとしても驚かないけども。
残るは、ロケット花火だけか。
「…………」
みどりは点火用ライターで、ロケット花火に火をつけようとした。
ロケット花火は、全部で五本。
一本目から四本目までは湿気にやられていて、ダメだった。
五本目。
祈るような気持ちで点火を見守っていたところ、ヒュー、と音を立てて天に昇っていった。
「一瞬だったな」
これなら、別に昼間にやっても何ら問題なかったんじゃないかって思うくらいに。
「なんか、ごめん……」
目を逸らしている。
「ま、まぁ、大丈夫だ。それよりも、アルファ。何か感じたか?」
「こんなの、ロケットじゃない」
否めない。
「っ……なんか……ごめん……」
ずずんと落ち込んでいる。街灯の光の下、四つんばいになってしまった。
「あー、あんま気にするなよ、みどり」
と、その時だった。薄暗い街灯の下を人影が歩いて近づいてきた。
「ん? あれは……」
「おい小僧。今、ロケット花火の音がしなかったか」
「かき氷屋のムキムキの人!」
ムキムキの人が歩いてきた!
「ん、ワシは宮島じゃが」
「宮島って名だったのか」
「そんなことよりも、ロケット花火の音がしなかったか?」
「あ、はい。今、ロケット花火を上げて……」
「良いよなァ、ロケットォゥ」
「はぁ……」
何だ、この人。
恍惚の表情を浮かべている。
「戸部くん。この人は、街で一番のロケット好きで有名な宮島さんだよ」
「おお、笠原んとこの子か。お前か、ワシに何の断りもなくロケット花火を打ち上げたのは」
断りが必要らしい。
「いやぁ参ったな。変な人に目を付けられてしまった」とみどり。
「おい、きこえちまうぞ」と俺。
「大丈夫。豪快な人で、そんなの気にするような人じゃないから」
「そうなのか」
「あ、でも、そうだ。宮島さんにお願いすれば、よりロケットらしいロケットが見られるかも!」
みどりは思いついた顔でそう言った。
「どういうことだ?」
「宮島さんってね、かなり変な人で、自分でロケット作ったりしたことあって、本当変なことばっかやる人なのよ」
「散々な言い様だな……」
「ふあっはっは!」
豪快に笑ってるし。
やっぱこの町、変な人多いぞ。
と、その時、それまで眠そうにしていたアルファが声を出した。
「ロケット、作れる」
「え? 作れるって、アルファがか?」
「作ったこと、ある」
「そ、そうなのか」
ならば、この少女もこのムキムキ変人宮島さんと同類というわけか。
「ほほう、異国の子か。お名前は何て言うんじゃ?」
「ファルファーレって呼ばれてた」
ん、ファルファーレ?
アルファじゃないのか?
「そうか、じゃあ、ファル子で良いな。よし、ファル子。ワシと勝負せい」
「勝負?」
「そうさ、ファル子。どっちが素晴らしいロケットを作るか勝負じゃぁ。いやぁ、異国の天才ロケット少女と勝負ったぁ、燃えるのう!」
何言ってんだ、この人。
「天才……呼ばれたことある」
あるのかよ。
「ねぇ戸部くん。アルファちゃんさ、どんどん記憶取り戻してる感じしない?」
「ああ、そうだな」
「やっぱりロケットが記憶を取り戻すカギなのかな」
みどりは呟いた。
「ロケットなら、誰にも負けない」
とアルファ。いや、ファルファーレか……。まぁ、今更よびかたを変えるのもどうかと思うし、アルファでいいか。
「おっ、言ったな。ファル子!」
「すごいの作るんだから!」
アルファは自信満々にそう言った。
「よっしゃ。そうと決まれば、明日、ロケットの飛ばしっこだ!」
「わかりました!」
「それじゃあ、明日の午後。湖に集合だ。いいな?」
筋肉質の宮島はアルファの顔の前に拳を突き出しながら言った。
アルファは、自分の右拳を宮島の拳にくっつけて、
「望むところです!」
「こうして、真剣勝負の蓋は切って落とされたのであった」
「戸部くん。何冷静にナレーションしてんのよ……」
「いやぁ、なんとなくな……」
ともあれ、ムキムキな男とアルファがロケット対決することになった。