アルファの章_5-4
で、笠原商店に来た。
「はぁ? アイスぅ?」
みどりが店番をしていた。
「そうだ。アルファは、アイスを食べると、口の中が冷たくなって甘くなるんだそうだ」
「当り前じゃないの」
「アイスクリーム♪ アイスクリーム♪」
「……戸部くん……子供に丸め込まれてない?」
「否めない」
籠絡されちゃってる気がする。
「まぁ、しょうがないか。可愛いもんね」
「うん?」
アルファは言って、首をかしげている。
「ていうか、この髪型。戸部くんの趣味?」
すると、俺が違うと答える前にアルファが、
「ちがうよ。あのねぇ、知らないおじちゃんが……」
「はい?」
みどりの冷たい目が、俺を射抜いた。アイスよりも冷たい視線で、まったくもって甘くない厳しい目だった。背後に白い煙がしゅわしゅわ沸き立っているような錯覚を見た。
「戸部くん。監督責任って言葉知ってる?」
「知らないっす」
「バカっ」
「すまん。だが、アルファは無事だったから良いだろっ」
「まったく……」
みどりは言いながら、呆れの息を漏らし、怒りの冷たい空気を霧散させ、ソフトクリーム製造機械の前に立った。ソフトクリームを巻いて、笑顔で渡す。
「はい、アルファちゃん」
「わーい」
受け取る。
そして、食べる。
「よかったな、アルファ」
「よかったな、じゃないわよ。お金。払って。二百万ドル」
みどりが、ずずいと手の平を出してきた。
「おい、ケタがありえないことになってるぞ」
言いながら、二百円を渡した。
みどりはそれを受け取ると、エプロンのポケットに入れた。小銭がぶつかり合う、ジャラっという音がした。
後、アルファに聴こえないような小声で、こう訊いて来る。
「アルファちゃんの様子、どう?」
「どうって……」
比較的小さな声で会話する。
「見た感じ、大丈夫そうだけど、頭ぶつけてたみたいだから……」
「あぁ、それなら大丈夫だろ。死んだりはしなさそうだ。頭おかしいのは元々みたいだし」
「そっか」
「あと、気になることが少し」
「どんな?」
「ロケットってのが、どうもカギになるみたいなんだ。思えば、昨日も、ほら、ショッピングセンターの休憩広場にロケットの模型、あったろ。あれに魅了されてたし」
「ロケットかぁ」
「どうだ? 何か、ロケット関連のことで、思い当たることないか?」
「えっと……あっ」
心当たりがあるようだった。
「何かあるのか」
みどりは近くにあった店内の棚をゴソゴソして、
「これなんて、どうかな」
花火セットを持ち出してきた。
「花火か」
「ロケットと言ったら、花火でしょう!」
「なるほど、やってみるか。少し季節外れにフライング気味だが」
まだ夏とは言えない季節だ。
「でも、花火なんて、昼間やっても微妙だから、夜まで待ちましょうか」
「そうだな……」
俺とみどりは、楽しそうにソフトクリームを食すアルファを見た。