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アルファの章_5-2

 廊下からの声が騒がしくて目覚めた。


 しかも、男のガヤガヤ声。


 寝覚め悪い。とても寝覚め悪い。


 というか、意図せず二度寝してしまったらしい。


 しかも、布団に眠っていたはずのアルファの姿は無い。


「どこ行った」


 そして、廊下からは相変わらずガヤガヤ。


 休日だってのに、うるさいやつらだ。


 紅野明日香の子分、というか風紀委員の立場を利用して注意してやろうか。そうだ、そうしよう。


 俺は扉を開けた。


「……………………」


 飛び込んできた光景に、目を疑った。


「ふぉおおお! 萌えぇええ!」


 仰け反りながらそう叫んだのは、髪が鋭利で古風な暴走族みたいな風貌の不良D。


「やっべ。リボンたまんねぇ」


 赤い髪のモヒカン、不良Cが天井に向けて拳を突き出しながらそう言った。


「おい、お前ら。着替えさせてやれ」


 これはムキムキの番長風、不良Aの静かな命令。


「Aさん、どのコスがいいっすかね。コレと、コレと、あ、この特殊スーツなんてどうっすか!」


 不良にしとくのが勿体無いくらいの金髪イケメン風の不良Bが、衣装を何着も見せている。


 つまり、その、何だ。あれだ。何と、不良に囲まれているわけだ。


「アルファたん、どれが良い?」


 不良Aは渋い声でそう言った。


 何だこのキモい連中は……。


「オレとしてはこっちっすね!」


「おらぁD! てめぇの趣味は訊いてねぇんだよ!」


「ヒィ、すんません! Aさん!」


 と、その時、化粧箱のようなものを広げ、リボンやゴムを手首にかけ、櫛を握ったモヒカン男が、満を持してこう言った。


「Aさん、髪型いじってみたんすけど、どうっすか!」


 俺は、「何ぃ。髪型を変えただと?」などと心の中で呟きつつアルファの方を見る。すると、何と、リボンを利用した高い位置での二つ結びになっている。早い話が銀髪ツインテール。


 おおう、似合っとる。でかした、金髪の不良Bくん。


「……てめぇ、最高じゃねぇか!」と不良Aが叫び、


「「「はい! サイコーっす!」」」

 不良の下っ端三人は声を揃えてそう言った。


「…………」


 はっ、黙って見ている場合ではない。


「てめぇら! 幼い女の子に何しとんのじゃー!」


 俺は叫んだ。


「ぬぅ! 貴様っ、戸部達矢!」と不良A。


「ふぁ、おにーたん」


「「「「おにーたんだと!」」」」

 四人分の揃った叫び声が響いた。


「アルファ。こんな変な男どもについてっちゃダメだろ」


「ごめんなたい」


「「「「ごめんなたいだと!」」」」

 何だ、こいつら……。


「お前らなぁ、この子に変なことすんな! 風紀委員権限で紅野明日香の前に突き出すぞ」


「くっ、この……紅野明日香のイヌめが!」


 ムキムキの不良Aが指差してそう言った。


 ああ、否めない。


 たった今、言った後にかなりのイヌっぷりを発揮している自分に気付いてガッカリしたところだ。しかし、今や俺の親分の――ということになっているが俺は認めるつもりは無いと言い張っている――紅野明日香が風紀委員長を名乗っているのである。そして、その配下には不良なんてあっさり蹴散らすくらいに最強な上井草まつりが居る。使える権力は利用すべきときには利用すべきだろう。


「とにかく、変なことすんな」


「アルファたんは、みんなのものだろう!」


「頭大丈夫か?」


「だいたい、オレらはアルファたんの髪型を『リボンを利用した高い位置での二つ結び』にしてみただけだ!」


 要するにツインテールにしてたってことだ。そこまではいい。問題はそこから先だ。


「さらに、着替えさせようとしてただろうが」


「可愛い子供にコスプレさせて何が悪い!」


 それを良いと思える神経の方がどうかしてるぞ、この性犯罪者予備軍どもめ!


「とにかく、来い、アルファ!」


「ふぁ? うん」


 俺は「おぼえてろよ、戸部達矢!」などという小者的な叫びを背中に受けながら、アルファを引っ張って部屋に連れ戻した。


「アルファ、平気か? 変なことされなかったか?」


「ううん。おじちゃんたち、やさしかった」


 おじちゃんって……あいつら俺と同世代だと思うんだが。中には年下も居るだろうに。


「髪をいじられただけか?」


「うん」


 頷いた。


「まぁ、それなら、良いか。可愛くしてもらって、良かったな」


「うん♪」


 両手で二束の髪の毛を握って、ごきげんだった。




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