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アルファの章_4-5

 リボン買った後、多くのベンチが並んだ休憩できるスペースに来た。


 人は居なかった。


 ついさっき、食料品がタイムセールに入るって放送が流れていたから、その影響で、休憩所が無人になっているのだろう。


 そこは、ロケットの模型が展示されていたり、大きなモニタがあったりと、なかなかにハイテクな雰囲気に包まれている。


 俺は、すぐにベンチに腰を下ろしたが、アルファは子供らしくロケットに興味津々のようで、駆け寄って行った。


 そして呟く。


「これじゃ飛ばない」


「そりゃそうだろー。ただのハリボテだしなー」


「……うん」


 頷いた。そして言う。


「飛んでも、安定しない」


 やっぱり、変な子だな。


 猫のぬいぐるみ抱いて、白い服着て、黄色いリボンつけて。記憶が無くて、宇宙から来たと言ったり、そんで今度はロケットに興味を示す、か。


 並べ立ててみれば、限りなく変だった。


「やれやれ、だ……」


 何だか、さらに限りなく変なことに巻き込まれそうな予感がする。


「みどりは、まだかなぁ……」


 まつりと志夏に報告して、どうなるのか。


 何か嫌な予感がしたぞ。


 まぁ、そんなことを考えていても、仕方ない。


 今は、とりあえずアルファと遊んでいよう。


 とりあえず、何か食べようか。


 やっぱり女の子だし、甘いものが良いだろうか。


 と、その時、ちょっとフライング気味の季節の風物詩を発見した。


 小さな屋台に『かき氷』と記されたのぼりが立てられている。


「かき氷か」


 英語で言えばアイスなのかな、やっぱ。俺は呟いた後、


「おーい、アイス、食うかー?」


 ロケット模型を見上げていたアルファに声を掛けた。


「アイス!」


 目を輝かせて、ぱたぱたと駆け寄ってきた。


「よし、買ってやろう。ここに座って、待ってろ。えっと……ストロベリーで良いか?」


 まぁ、イチゴシロップが無難なところだろう。


 とりあえず女の子には赤いものを与えておくのが良いのではないかという安易な考えもある。


「うん」


 子供らしく頷いた。


 で、かき氷を売っている屋台の前に到着。


「かき氷ください。イチゴで」


 俺は、店番をしているムキムキの男に注文する。


「あいよっ!」


 ムキムキは言った。


「いくらっすか?」


「100円だ」


 なかなかに安い。


 俺は、財布から百円玉を取り出し、手渡した。


 ムキムキな男は、


「うおおおおおお!」


 と叫びながら、大根おろしを作るような機材、おろし金で氷を豪快に削り始めた。


「うわぁ……」


 思わず呟く俺。


 おろし金で削られた氷は、空中で弧を描き、透明な器に次々と飛び込んでいく。


 あっという間に山盛りのかき氷になった。


 なんという職人芸。


 そしてムキムキ男は、イチゴを丸ごと手にとって、その握力でもって握りつぶした。そしてそのイチゴを食べた。


 ――食うのかよ。掛けるんじゃないのか!


 そしてその手でイチゴシロップのビンを手にとって、掛ける。そう、結局シロップを掛けた。


 ――イチゴ潰したのは何だったんだ!


 ツッコミを入れたい。


「へいお待ち」


 こうして完成したかき氷。


「あの、スプーンとかないっすか」


「おとこなら――」


「いえ、食べるの女の子です」


「あ、そうなのか。じゃあ、これを」


 ムキムキ男は、箸を手渡してきた。


「箸っすか……」


「やまとなでしこなら――」


「いえ、外国人っす」


「そうか。じゃあ、フォークが良いか?」


「――スプーンでしょ! 普通に考えて!」


「おお、そうか。娘にもそんなことを言われたのを思い出したぞ」


 何なんだ、この人は。


「スプーンは……と、お、あったあった」


 筋肉質の男は、しゃがみ込んで足元で何かゴソゴソ探した後、小さくて透明なプラスチックのスプーンを手渡してきた。


「どうも」


「ありがとうございましたー」


 男の太い声を背に、アルファの待つ場所へと歩く。


 アルファは、テーブル席に移動していて、子供らしく足をばたつかせながら、


「アイスクリーム♪ アイスクリーム♪」


 と、歌いながら期待の笑顔を浮かべている。


 ごきげんな様子で心待ちにしているようだ。


 俺は、「おまたせ」と言って座りながら、アルファに赤っぽいかき氷を差し出した。


「……え……」


 おや、あからさまに落胆したぞ。


「……アイスクリーム?」


「イエース、ジャパニーズアイス」


「……………………」


 あっれ、涙をじわりと溜めている。


 今にも泣き出しそうだ。


 ちょっと、まずいかな……これ……。


「えっと、甘くて美味しいぞ。そして冷たいぞ。食べてみろ」


 差し出す。


「うぅ……」


 泣いた。


「な、泣くなっ。泣くんじゃない!」


「アイスクリーム…………」


「よ、よし、わかった。アイスクリームだな! かき氷じゃないやつな! ここで大人しく待ってろ。どこにも行くんじゃないぞ」


「うん……」


 頷く。


「よし、いい返事だ! ここで待ってろよ!」


 俺は、アルファに動かないように言いつけて、走った。目指す先は、食品売り場の冷凍食品コーナー。


 そして到着っ。


 だが、しかし!


「な、何だってぇ……」


 アイスクリームだけが売り切れていた。かき氷は売れ残っているのに。


「何故! 何故にアイスが無いんだっ!?」


 と、その時、通りすがりの女が言った。


「あれっ、もうアイスクリームのタイムセール終わっちゃったのかぁ」


 説明おつかれさまです。


 タイムセールで売り切れになってしまったというわけか。


 何というタイミングの悪さ。


「どうすりゃいいんだ!」


 俺は叫んだ。


「あの、どうかしたんですか?」


 通りすがりの女の人が心配そうに声を掛けてきた。


「アイスクリームが、無いんです!」


「えっと」


 処置に困っているようだ。


「アイスクリームが無くちゃ! あの子が泣いちまうんだよォオオオ!」


「お、お気の毒に……」


 女の人は、そう言って駆け逃げて行った。


「どうしようもない」


 俺は手柄(てがら)を得られないまま、休憩広場に戻った。




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