アルファの章_4-1
※紅野明日香の章、四日目から。
三日目までは同じです。
子供を拾った。可愛い、幼い女の子だ。
銀髪で、拾い上げたら水に濡れているというのに軽かった。
これは夢か、夢なのか。超可愛い女の子が、湖に打ち上げられてるなんてのは。
夢ではないだろう。これまでの人生の記憶は確かにある。
この掃き溜めの町に来てからの記憶は、さらに鮮明な形で、頭の中にある。
都会の町で生まれた俺は、多少ひねくれながらもすくすく育ち、幼い頃から甘えた野郎ぶりを見せつけて遅刻とサボリを繰り返すプチ不良へと生長した。
そのおかげで、ここ掃き溜めのかざぐるまシティへと飛ばされてしまい、転校初日にいきなり遅刻。情けないことに遅刻を咎められるのを怖がった俺は屋上へ逃げ、そこで紅野明日香と出会い、明日香と一緒なら怖くはないと思ったようで彼女を捕まえて一緒に転入の挨拶。面倒見の良さそうな級長の伊勢崎志夏と出会い、風紀委員の上井草まつりと出会い、看板娘の笠原みどりに出会った。
二日目には、紅野明日香と共に上井草まつりと野球対決をして勝利し、紅野明日香が風紀委員長(番長みたいなもん)になったり、志夏が屋上で町の説明をしてくれたりした。
学校まで続く坂道にある風車。街を囲む険しい山々。坂の麓の商店街。南側にあるショッピングセンター。背の低い白い建物が並ぶ住宅街。二つの小島が浮かぶ湖。崖に見える裂け目。街の北西にある図書館。街の北側の謎の森。級長の家はナイショ。とのことだった。まぁ級長が住んでるのは女子寮だろうと推測される。なんといっても女子寮の寮長まで兼任しているらしいから。
そいでもって三日目には、明日香にバナナでぶったたかれて、平手でもぶったたかれて、そんな明日香が不良たちに襲われたところを上井草まつりに救われて、まつりとのわだかまりも無くなったように思えた。さらには、男子生徒Dが故郷に帰るという少々感傷的なイベントも無事に完了したようだった。
さらに風間史紘という痩せた弱そうな男とも出会った。彼はまつりにイジメられているようで授業中に背中をシャープペンでチクチク刺されたりしていた。みどりの話では、風間史紘が不良にイジメられているところを上井草まつりが助け、まつりによるさらに酷いイジメが始まったという経緯があるらしい。
そいで、笠原みどりと一緒に掃除した後に、みどりにお礼を言われたりした。何でも、上井草まつりと仲良くしてくれて嬉しかったからだって話だが、まつりはいつも文句ばっか言ってるイメージしか無いんだけどな。
みどりと笠原商店の前で別れるときに、パタタっと走った彼女の手が、店の引き戸を開けて、閉め、「ただいまー」という声が戸の向こう側から響いて、俺はしみじみと思う。
――いつか、俺も「ただいま」を言う日が来るだろうか。
そんな感じで三日目までが終了したというわけで、畳の部屋で目覚めた今は四日目。
そう、四日目である。
ていうか、もう、四日目か。
その朝、俺こと戸部達矢はそんなことを思いながら日課になりつつある朝シャンを敢行していた。
三日過ごしてみて、随分この街を気に入ってきている自分がいて、これからの生活も楽しみだ。
知り合いも結構増えたしな。
一緒に転入した紅野明日香。
女番長の上井草まつり。
級長にして寮長にして生徒会長の伊勢崎志夏。
商店街の看板娘である笠原みどり。
昨日知り合った男子の風間史紘は、まだちょっとよくわからないが……。
女の子が多すぎて憶え切れない気がしていたが、親しくなれば当然、憶えられるわけだ。
「たった四日って、気がしねえなぁ」
もう皆と、随分長く一緒に居るイメージがある。
強烈に。
「今日は、どうしようかな」
特に予定が無い。
以前住んでいた街に居た頃には、休日になると友人と遊び歩いたりしていたのだが、ここでは、そもそも友人というものが居ない。
ゆえに、誰かと遊びに行ったりできない。
「散歩でも行くか」
まだ、この街のことをそれほど知っているわけでもないことだし。
よし、そうしよう。
バスルームを後にした俺は、黒い無地の長袖シャツに袖を通した。
そして出かけた先で、俺は銀髪の女の子を拾った。