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宮島利奈の章_6-6

 街灯の少ない夜道を歩いて、図書館に着いた。


 自動扉のエントランスを抜けて中に入ると、制服姿の宮島利奈が待っていた。


 寂しそうで悲しそうな表情で、椅子に座っていた。


 何故か頬が叩かれた後のように真っ赤で、額には絆創膏が貼られている。さらに長く美しかった髪はボサボサ。そして相変わらず利奈の上をフワフワと白い着物の幽霊が浮いていた。


 ちなみに俺の格好は相変わらず迷彩柄のツナギだった。


「利奈っち……」


「遅いよ君!」


「何か、おでこ怪我してるけど、大丈夫か? 何も無いところで転んだか?」


「いや、えっと、まぁ……」


 歯切れの悪い反応だった。


「それに、利奈っち、もうオバケこわくないのか?」


「オバケよりも、こわいものがあったのを、忘れていたの……」


「何だそれは」


「パパとママ」


「あぁ、怒られたのか」


「うん。パパには図書館中を追い回されて……」


 さすが親子だな。俺も利奈に追い回されたっけ。


「それで、コケて頭打った」


「そっか」


「その上で、ママに引っ叩かれた」


「でも、何でそんなに怒られたんだ?」


「北の森に行ったことが知られて、その瞬間に顔色が変わって……まつりが何とかパパとママをなだめてくれて、今は町の外に避難したけど」


「しかし、それにしてもひどい体罰を受けたように見受けるが」


「なんかね、わたしの家、宮島家は町の秘密を守る役目を持ってて、他人を連れて森に入ったのが叱られるポイントだったらしい」


「なるほど」


「散々酷い目に遭った後、本子ちゃんが慰めてくれて、まつりと一緒に廃屋に行って、帰ってきて、今に至るんだけど……」


「えっと、それじゃあ、まだ本子さんの言う巻物は見つかってないのか?」


「ちょっと、ブルーになってたもので。まだ探してません、すいません」


 何だか、元気がなかった。


「そ、そうか。じゃあ、一緒に探そうぜ。心当たり、あるんだろ?」


「うん」


 こくりと頷き、俺が差し伸べた手をとって立ち上がった。


「どの辺の書架だ?」


「本棚には置いてない」


「ほう」


「重要な書物が保存されている場所があって、そこに巻物いっぱい」


「そうなのか」


「本子ちゃん。その、謎の書物は、巻物なんでしょ?」


「そうですよー」


「じゃあ、あそこっきゃないっしょ……」


 呟くように言った。


「おいおい、元気なさすぎだぞ。昨日あたりまでの元気はどこいった」


「叩かれたほっぺが痛いんだもの」


 あぁ、口を大きく開けられないのか。かなり強く叩かれたんだな。


「ついでに、まつりにも、色々されたし……」


 何されたんだろうか…………。


「ま、まぁ、その巻物を探そうぜ」


「うん」


 そんなところで、本子さんが慰める。


「利奈っち、そんなに落ち込まないで」


 俺も頷き、


「そうだぞ。お前は何も悪いことしてない」


「禁止されてることを破ったって意味では……」


「いいや、悪くないはずだ! あいつらは、何も悪いことをしていなくても、何かと理由を付けて捕まえるようなヤツらなんだ! 俺もいわれの無い罪に問われて酷い目に遭ったもんな。ホント、この町の人間は――」


「わたしも、この町の人間なんだけど」


「あぁ、えっと……いや、利奈っちは、いい子だぜ……。とにかく! さっさと巻物探して、この町の謎を解こうぜ! それで本子さんも成仏できるんだろ?」


 すると本子さんは言う。


「はい。役目をこなせば、この世に用は無くなるはずです。たぶん」


「ほら、良いことずくめだろ。さ、探そうぜ」


「うん」頷いた。


「で、何処にあるんだ、巻物ってのは」


「秘密の入り口があるの」


「秘密の入り口?」


「そう、学校では図書委員のわたししか知らない隠し扉」


「何処だ?」


「こっち」


 利奈は立ち上がり、歩き出した。


 その利奈にくっついてフワフワ移動する本子さん。さらにその後ろを歩く俺。


 で、しばらく歩いて、


「ここ」


 ある書架の前に出た。


「さあ、ここが、隠し扉になってて、本棚を動かすと……じゃじゃーん――ってあれ?」


「どうした?」


「本棚、動かなくなってる……」


「あぁ、そりゃ、アレだ。この間、安全のために書架固定したろ。しっかり固定したから動かなくなったんだな」


「あぁ、そっか。どうしよ……」


「金具外すしかないな」


 だが、しかし、手元にドライバーは無い。


 と、その時、フワフワ幽霊がこう言った。


「それなら、本子がやります」


 俺と利奈っちは「え?」とか「へ?」とか言いながら首をかしげた。


「本子は、すごいことできるんです」


 言うと、本子さんは目を瞑った。


「何をする気だ?」


 しかし返事なし。集中しているようだ。


 無風の図書館に、本子さんを中心に風が吹く。


 そして、次の瞬間、固定していた金具がパキパキと外れ落ち、ズゴゴゴゴゴと書架が浮いた。書籍もバラバラと落ちる。そして、それまで書架があった場所には、地下へと続く隠し階段が現れた。


「こ、これは……」


「そうそう。此処(ここ)ここ」と利奈っち。


「怪しげだな」と俺。


「本子ちゃん、ありがと。すごいね」


「それほどでも……」


 照れていた。


「行こうぜ」


 俺たち二人と幽霊は、階段を下る。


 自動で電気が点いた。


「ハイテクだな……」


「ここはね、町でも数人しか知らない場所なの」


 長い階段を下りながら利奈は言う。


「そんな重要な場所に、俺が入って大丈夫なのか?」


「大丈夫。君を信用してるから」


「そ、そうっすか」


 そんなに信用されるような生き方してきてないが、信じてもらえるのは嬉しいことだ。


 更に歩いて、鉄扉を開くと、また自動で電気が点いた。目の前に、侵入者防止用と思われるゲートが現れる。よく電車に乗るときに通るような自動改札機だ。


 その奥は大きな部屋になっていて、いくつもの棚が並んでいる。


「達矢、これあげる」


「ん? これは?」


 手渡されたのは、電車の定期券みたいなカード。


『ゲスト用』


 と大きく書かれている。


「これを、改札機にかざして通り抜けないと死ぬかもだから気を付けて」


「死ぬって……」


「ま、とにかく、わたしに続いて入ってきてね」


「お、おう」


 利奈が先に通り抜けて、俺もそれに続いた。


 改札機にカードを近付け、通り抜けた。


 大きな部屋だった。天井近くまである高い棚には、大量の巻物があった。


 紙の巻物、竹簡、木簡。


「おい、この巻物の中から、たったの七つを探せってのか?」


「そうなの? 本子ちゃん」


「そういうことになるのか、あるいは、此処に巻物が無い可能性もあると思います」


 七つ集めたら願いが叶ったりしないかな。


「なぁ本子さん。以前も訊いたと思うが、巻物の特徴とか、ないの?」


 たとえば、☆マークがついてるとか。なんかの家紋とか紋章とかが入ってるとか。


「忘れました」


「忘れただと?」


「タイトルとかは?」


「さぁ」


「さぁ、だと?」


 何だこのいい加減な幽霊は。


「何しろ、巻物探しの役目を引き受けたのは、かなり昔ですし」


「そこに、何が書かれてるかってのはわかる?」


「町の歴史です」


 と本子さん。すると、利奈っちが、


「え? それなら、場所、知ってるよ」


「本当か?」


「こっち」


 歩き、とある棚の前に立った。


 そこには、紙の巻物だけがいくつもあった。


「これ、違う?」


「さぁ、読んでみないことには」


「じゃ、何冊か……」


 利奈は、ひょいひょいといくつかの巻物を取って、床にぺたりと座った。


 そして、巻物を床に広げていく。


 なんか、少し黄色がかった紙の上にミミズ這ったような字が、ズラっと書かれていた。


「読めるのか?」


「うん……」


「何が書いてあるんだ?」


「一回読んだことあるから、だいたい憶えてるけど……」


「へぇ、すごいな」


「この巻は、穂高家、上井草家、浜中家の血で血を洗う争いについて書かれてる」


「これじゃあないですね」


「違う巻かな」


 利奈は言って、違う巻物を広げた。


「それには、何て?」


「町の道路整備のことと、病院建設から学校建設について。あと、神社が技術の喪失によって建てられなくなったこと」


「細かいことまで書かれてるんだな」


「でも、これも違うよね」


 また、違う巻物を広げた。


「これは風力発電事業の誘致についての会議の議事録」


「確かに、何か極秘っぽい響きだな」


「っぽいっていうか、超極秘っしょ」


「他は?」


「えっと、他は……と、ロケット計画……なんじゃこりゃ。まぁいいか。どうせパパが変な計画でも立てたのね。で、他は、ショッピングセンターの建設計画……へぇ、これもパパが書いてる」


「ん? ショッピングセンターができたのは、最近だよな。何で巻物なんていう、保存しにくくてかさばる媒体で残してるんだ? 今の時代なら、せめて本に残すとか、パソコンとかに入れてデータで残すとかすりゃいいのに」


「でも伝統だからね」


「なるほど、伝統か」


 しかし効率悪いな。巻物なんて、かさばるし、取り出しにくいし、今となってはメリットがあまり無いと思うのだが。


 しいて言うなら、他の大事な巻物を隠すためとかにだったら、巻物を大量に残すことに意味はあるのかもしれないけども。


「こっちの巻物は、湖の水質調査結果について」


「もっと、古いものは無いのか?」


 俺が訊くと、


「えっと……確かね、一番古いのは、災害からの復興計画のだから……棚にあるかな」


 利奈は言って立ち上がり、棚から巻物を手に取った。


「災害? 災害って何だ?」


「さぁ、わたしが生まれる遥か昔のことだから」


 巻物を広げた。


 紙は黄色くなっていて、少しボロかった。


 その時、幽霊がはっとした表情で、


「あっ」


「本子ちゃん、何か?」と利奈。


「それです」


「それ?」


「これが探してた巻物ってこと?」


 俺はひょいっと黄ばんだ巻物を持ち上げて見せた。水分がなくなっているからか、とても軽かった。


「いえ、違うです」


「えぇ? じゃあ何?」


「その巻物よりも、前に書かれていたものです」


「そんなのがあるのか?」


「あるはずです」


「うーむ、心当たり……無いなぁ」


「思い出しました。探していたのは、そう、町の、隠された歴史です」


 隠された歴史ねぇ。


 本子さんの言葉を受けて、俺は言う。


「うーむ、隠されてるってくらいなら、解読不能になってるとか、そういう感じのものかもしれんな。隠された暗号とか、そういう類のもの、無いのか?」


「あっ――」と宮島利奈。


「あるのか?」


「どうしても読めないものが、あった」


「どこに?」


「この部屋にあるはず。それに、言われてみれば、七巻くらいの塊になってて、確かに古くて、巻いてあって……」


「それです。たぶん」


「えっと、確かこっちの方に……」


 利奈は、散らかした巻物はそのままに、奥の方に歩き出した。


 本子さんと俺も続く。


 少し歩くと、開けた場所に棚があった。


「この棚の、上の方」


 かなり高いところにそれはあった。


 あれは、木簡……かな。木の板を並べて、その一枚一枚に墨で文字を記し、それをヒモ等で結んで繋げて巻物にしたものだ。


「よし、君。肩車だ」


「…………」


 良い思い出ないぞ、肩車に。また利奈の頭をぶつけさせてしまったらどうする。


「どうしたの? しゃがんでよ」


「踏み台とか、無いのか?」


「そこにあるでしょ。目の前に」


 確かに、あるが。


「踏み台だけじゃ高さが足りないから、肩車しようって言ってるの」


「しゃがみなさい」


「わ、わかったけどっ」


 そして、肩車する。


 こいつ、恥ずかしいとかそういうアレ、無いのだろうか。


 スカートで肩車とか、普通恥ずかしがるものじゃないのか?


 いや、この町の人間に「普通」であることを求めるのは不毛なような気もするが。


 そして、俺は利奈を肩車しようとした、その時、


「あのぅ、本子が取りましょうか?」


「え?」


「本子の力を使えば、取れますよ」


 しばし二人、固まる。


「あっ、そ、そっか。そうだね」と利奈。


「本子さん、お願いします」


「お安い御用です」


 言うと、頭上からフワフワと木簡が降りてきた。


 数は、六。


 全部で七あるはずだから、あと一つが何処かにあるはずだな。


 だが、今は、それよりも、この六つを読んでみるしかないだろう。


「ありがと。本子ちゃん」


 利奈は言って、床に散らばった木簡を次々と広げた。


 ミミズが這って、繋がったような字。


「何が書いてあるんだ?」


「読めない」


「古い言葉なのか? 万葉集みたいなアテ字まみれとか、あるいは古代ヤマト言葉とかヒエログリフとか」


「いや、それなら読めるから……」


 読めるのか。純粋にすげぇな。何者だ。


「あ、反対から読んでみるってのは、どうだ?」


「反対側ねぇ」


 利奈は逆さにした。が、首を傾げる。


「さっぱりだぁ」


 うーむ。じゃあ、


「他には、最後から読んでみるとか」


「最後から。か」


 利奈は、六巻あった巻物を全部広げた。


 広げられるスペースはあったが、広げてみたところで、さっぱりだったようだ。木簡の畳みたいになっている床を見つめながら首をかしげている。


「どう、何か気付くことない?」


 利奈は長い髪をかき上げながら「うーん」と唸った。


 ただ曲線がうねうねしているようにしか見えないようだ。


「たとえば、並べ方を変えたら、一枚の絵が姿を表すとか、かな」


 利奈っちはそう言った。


「なんか、右脳が活性化されそうだな、それ。脳トレっぽくて」


「まぁ、無いかぁ」


「そうだな。それが町の謎だって言われたら、俺は全力で首を傾げるぞ」


「うーん……じゃあ、他に可能性は?」


「七巻目を見つけないと、読めるようにならないとか?」


「そんなことは無いはずです」と本子さん。


「そうなのか」


「ハイ。それぞれが独立して読める巻物だったことは、間違いないです」


「じゃあ、異国語とか?」


「異国……語…………?」


 呟いた。


「どうした?」


「この、変な文字が、もしかしたら……」


「どうしたってんだ?」


「これを、こうして……」


 利奈は、書簡を横書きの状態で見えるようにして、見た。


 そして叫んだ。


「おああああああっ!」


「ど、どうした、利奈。急に」


「これ、筆記体のローマ字っしょ!」


「ローマ字? 横書きだったってことか?」


「そうっ!」


 右から左への縦書きで書かれているのを想定して睨めっこしていたところだったが、実は横書きだったと言っているようだ。


「読める! 今まで、『古いし木簡だから縦書きっしょ』っていう固定概念が邪魔してた!」


「何て、何て書いてあるですか」


 本子さんは期待に満ちた声で言った。


「ちょい待ってね……。ちょっとかなり崩された字だけど、今、解読するから」


 そして、利奈は、そこに書かれているローマ字を読み上げはじめた。


「えっと、第一巻は……これか……『長の許可無くこの書物を閲覧することを禁ずる。空から落ちてきた巨大な石船は、平地だったこの地に起伏をもたらした。石船の激突によりて、地が窪み、盛り上がり、周囲を山に囲まれた地となる』以下略。次、二巻……」


 更に続ける。


「『謎の石船を恐れた人々は、石船の上に土を被せたが、石船から謎の光が放たれた。その扇状の光は、海側の山をえぐり、強い風が吹く地形を生んだ』以下略。次、三巻……『人々は、光を恐れ、石船を水中深くに沈めた。石船の衝突で生まれた湖の底に……』以下略。次は――」


「待て。さっきから『以下略』ばっか言ってるが、略した部分に大事なことは書かれていないのか?」


「あぁ、えっとね。読み方の注釈が長々とやたら複雑につけられてるだけで、それを見て現代語に訳しながら話してるから……書いてある内容は、わたしが話してる部分」


「そうなのか」


「続けるね」


「「お願いします」」


 俺と本子さんは同時に言った。


「えっと、四巻……『不思議なことに、石船を沈めた翌日には、湖に、ぽっかりと陸地が生まれていた。細長い一つの島で、丸みを帯びた岸と、角ばった岸があった』」


 丸みを帯びた岸と、角ばった岸か。古墳の、前方後円墳みたいな?


 あの、古風な鍵穴みたいな形の。


「次、五巻。『石船の正体は不明のままで、この地に残されたのは、硬くなった地盤と、ただ風の強い地形のみであった』」


「六巻『様々な調査が行われたが、地質、水質等、全てにおいて汚染は見られなかった。石船の正体を知った我々はこれを永久に封印するものとする。なお、石船、および石船の使い方の詳細は次巻に記す――』」


 そして利奈は顔を上げ、


「ここで、終わってるわ……」


 そう言って、俺と本子さんの顔を見た。


「石船の正体って? ていうか、石船って?」と俺は言う。


「えっと、全七巻で、第七巻が無いから……」わからない、と利奈はいう。


「何とまぁ、モヤモヤするなぁ」


「同じような木簡を、探しましょう」


 本子さんが希望に満ちた輝く瞳でそう言って、


「そうだな」


 俺は頷いた。すると利奈が言う。


「あ、えっとね……実はそれ……燃やしちゃった」


 何……だと……?

 あれ、聞き間違いだろうか。今、とんでもないこと言わなかったか?


 燃やしちゃった……とか何とか……。


「ええええええええ?」


 本子さんは叫んだ。そして信じられない様子で呟く。


「も、燃やし……」


 すると利奈は、拳を作った手の甲で自分の頭を叩いた。


「てへ☆」


 いやいや、てへ、じゃねぇよ。


「おい。どうすんだ。町の謎が完全に解けないままだったら、どうなるんだ?」


「本子が、成仏できません……」


 本子さんが悲しそうに呟く。


「おい利奈ぁ! 何で本子さんに迷惑かけてんだぁ!」


「子供の頃ね、焼きイモした時にちょうど良かったから……」


「この軽率アホ娘がぁ!」


「よく燃えたなぁ」


「…………本子の……本子の、成仏して輪廻転生する予定が。しくしく……」


「おい、本子さん泣いてるぞ! どうすんだ!」


「本子ちゃん可愛いから、ずっと一緒に居ても良いっしょ」


 さっきまで「オバケだオバケだ」って泣いてたのに、いつの間にか仲良くなっていたらしい。


「悪霊と化しますよぅっ?」


 ふわふわした雰囲気のまま、本子さんは言った。


「本子ちゃん、ごめんっ!」


 目を瞑って合掌して謝っていた。


 本子さんは言う。


「本子の役目は、人に、この町の謎を伝え、解かせること。そのために動くのです。『石船というものの正体と使い方』が町の謎であるのなら、それを突き止めねば」


「突き止めるったって、どうやって……」


「ふっ、利奈さん。カラダ、借りますよ」


 俺と利奈っちは同時に「え?」と声を出す。

 本子さんは、一度天井に向かって舞い上がった後、利奈の背中から体内に侵入した。


 そして、


「この体は乗っとりました」


 利奈の口から、そんな言葉が放たれた。


「え? え? いや、えっと、まさか……本子さん……なのか?」


「そうです。体は利奈っち、頭脳は本子です」


「利奈の精神と入れ替わった?」


「まぁそんな感じですね」


「利奈の精神はどこ行っちまったんだ」


「この体の中でヒステリックにギャアギャア騒いでいます」


「あーっと、利奈の体を使って何をする気なんだ?」


「石船が沈んでる場所へ」


「湖か?」


「そう。湖の底に行ってみようと思って」


 湖の、底……だと……。


「それ、利奈死んじまうんじゃねぇか?」


「でもそんなの関係ないです」


「なっ……」


 何言ってんだ、この幽霊。


「それでは、行きます」


「待て待て待て待て」


 俺は、利奈の手を掴んだ。いや、中は本子なんだっけか。いやとにかく、利奈の体を止めようと手を掴んだ。


「本子は、やらねばならぬのです」


「いや、しかし、利奈に憑いて殺すのはやめてくれ!」


「それは、できない相談です! 本子は成仏しようと思ったのに、それが、利奈っちのせいで出来なかったのです!」


「よし、成仏できれば良いんだな?」


「それはそうですけど」


「よし、じゃあ付いて来い」


「え? 本子が成仏する方法があるですか?」


「ああ、あるとも。ありますとも。だから、とりあえず体を利奈に返してあげて下さい、お願いします」


「わかりましたっ!」


 利奈が、その言葉を発した後、すぐに利奈の体から本子さんが抜け出した。


「大丈夫か? 利奈っち」


「うぁーん……オバケこわかったよー」


 泣きながら抱きついてきた。


「よしよし」


 抱きしめて頭を撫でてやった、が、次の瞬間!


「君! 汗くさい!」


 ドンと突き飛ばされた。


「す、すみません……」


 おこられた。


 そういや、探検に出発して以来、風呂入ってなかったからな、なんか不快な思いさせちゃって申し訳ないぜ。


「達矢さん! 成仏する方法って何ですか?」と本子さん。


「まぁ、その説明は後だ。とにかく地下を出るぞ。もうここに用は無いだろ?」


「あ、うん」


「よし、じゃ行くぞ」


 で、階段を上って、多くの書架が並ぶ階。


 俺が利奈に出会った場所で、追い回された場所でもある。


 俺を先頭にして歩く。


「ねぇ、君。本当にあの本子さんを成仏させる何かがあるんだろうねっ?」


 利奈っちはそう言った。俺を信用していないらしい。


「ある。成仏させてやるぜ」


「頼りにしてるからね」


 任せておけ……と言いたいところだが、俺の考えている方法が、本子さんに通用するかどうか……。そこで、俺は言ってやった。


「最善は尽くすぜ」


 みごと、引導を渡してやろうではないか。




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