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宮島利奈の章_6-5

 どれくらい、時間が経ったのだろう。


 天窓からの明かりの変化から考えるに、まだ一日も経っていない気がする。


 ずっと明るいままだ。


 だが、何もすることのない退屈な時間は、とても長い時間に感じられた。


 せめて眠ることができれば、と思ったが、冷たい床の上でなかなか眠れない。


 何かを考えるにしても、未来は考えたくないことだらけだ。


 問題を持った人間が集まる町で、更に問題を起こすということは、故郷に胸を張って帰れないということでもある。


 このままでは、一生、この不便で「普通」ではない人間が集まる町で生きることになってしまうのではないか。


 それは、嫌だ。


 でも、容疑者になった時点で、社会的信用は失われるのではないか?


「ああ、ダメだ……」


 こんなことばかり考えてしまっては、余計気が滅入ってしまう。


 楽しい事。何か楽しい事を考えねば。


「しりとりでもしようぜ」


「そうだな」


 一人会話を開始してしまった。


「よし、じゃあ……どらえも○。ほら、○からだぞ。って終わってる終わってる。それ終わってるから」


 始めた瞬間終わった。


「あっははは」


 ちょっとおかしくなってきたかもしれない。


 独房に長時間入れられたら、おかしくなっても不思議じゃない。


 何で、何でこんなことになってしまったんだ……。


 頭を抱えたい。


 手錠がかけられているせいでうまく抱えられない。


 俺が一体何をした!


 こうして冤罪が作られていくのかぁ!


 狂っている世界を嘆きたい。


「もう嫌ぁ……」


 溜息混じりに言った。


 と、その時、ギィィと目の前の鉄扉が開く音がした。


 扉の方を見ると……上井草まつりが居た。


「やはー」


 笑いながら。


「な、何で笑ってるんだ……」


 不気味だ。


「はっ! まさか……あれか? 俺の死刑が決まったとか……」


「ごめんねー」


「ごめんだと!?」


 やはり、やはり俺は死ぬのか……。


「キミが言ってた森の中の廃屋を調査してみたの」


「ん、利奈も連れて行ったのか?」


「うん。利奈しか道を知らないからね。涙の理由を突き止めるためにも、そうした方が良いと思って」


「……そうか」


「利奈を連れて、廃屋の二階にある部屋に行ってみたの。そんでもって、そこで、本を見つけた」


「あぁ、光る本ね」


「そう。怪しげにポワポワ光る本だって利奈は言ってたけど、もう光ってなかった」


「だがそれに触ったら利奈の肩の向こうに、白い着物を着た微笑む幽霊が居たというわけか」


「そう。だから、ごめん」


「いや、まぁ、疑いが晴れたから良かったものの……キツかったぞ。拷問みたいなメシは食わされるわ、閉じ込められるわ」


「それでさぁ、幽霊の本子さんから事情は聞いてね、キミ、本当に何もしてなかったのね」


「ああ」


「『紳士だった』って言ってたわ」


「そうだろう、そうだろう」


「というわけで、風紀委員であるあたしに対する狼藉のことは、チャラにしてあげるわ」


 して()()()だと?


 それどころか、冤罪としてぶち込まれたことに対する謝罪を要求したいくらいだぞ。


「それで、これは命令だけど――」


 しかもこの期に及んで命令するか、普通?


 おかしいだろ、この女。


 まぁ、こいつはそういう奴だから仕方ないか。


「――図書館に行きなさい」


 まつりはそう言って、図書館の方角を指差した。


「図書館?」


「そう。利奈が調べ物してるみたいなのよ。それをキミが手伝え」


「調べ物?」


「全七巻の巻物を探すんだって」


「あぁ、本子さんが言ってたやつか」


 この町の謎がどうのこうのっていう。


「あたしは、他にやることがあるから……」


「やることって何だ?」


「避難誘導」


「あぁ、そっか」


 そういえば以前、避難勧告が出てるって志夏が言ってたな。


「利奈が行方不明になってたから凍結してたんだけど、見つかったからね。昼夜問わずの避難作業中なのよ」


「そっか。避難することにしたのか」


「うん。でも、不発弾が処理されたら帰って来るし、受け入れ先の学校も見つけたし、少しの間だけだと思うから」


「どさくさに紛れて故郷に帰れねぇかなぁ」


「何か言った?」


「い、いえ、何も」


「ちゃんと更生を認められて故郷に帰ることを考えなさいよ」


「はい、すみません」


 不良のまつりに説教されるとは屈辱だが、言い返しようのない正論だった。


「ほら出なさい」


「はい!」


 俺は、まつりに促されるまま独房の外に出た。


 すぐに、廊下だった。


 まつりを先頭にして階段を下る。


 昇降口で靴を履き替え、中庭に出た。


 少し歩くと、夜の闇の中、強い風が顔を打った。


 校門を出る。


「よし、それじゃあ、あたしは町の南側に用事あるから。えっと、図書館までの道はわかるよね」


「ああ、大丈夫だ」


「それじゃ、またね。あと…………利奈をよろしく」


「任せておけ」


 まつりは、くるっと素早く俺に背を向けると、颯爽と駆けていった。


 まつりと別れた。




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