宮島利奈の章_4-2
さて、どうするか。
まだ午後になるまでは時間があるが、そろそろ図書館に行っても良い頃だろ。利奈っちも待ってるかも知れんしな。
と、少し歩き、ふと俺は思った。
そういや、ここから笠原商店が近いな。寄って行こうか。
うむ。雨降りそうだから、ついでに傘も買えるかもしれん。
俺は笠原商店の前に立った。
ガラッと引き戸を開けると、新聞を広げながら店番をしている中年の男の姿があった。
みどりの父親、だな。
「いらっしゃい」
「こんにちはー」
俺は言いながら、軽く会釈。
店内を見渡すも、みどりは店内にはいないようだった。
さて、しばらく店内を物色していると、面白いものを見つけた。
いや、まぁ大したものではない。
ただのイタズラ道具だ。
プラスチック製のゴキ○リ。略して「ピージー」
Plastic Goki**ri
頭文字を取って、「ピージー」と呼ぼう。
隠語略語にすれば、おぞましさも半減するというものだ。そして、ゴ○ブリのくせにおぞましくないということは、それはもうゴキ○リではない。
ピージー。あくまでピージーである。
にしても……細かく描写する気も失せるほどにモザイク必至のリアルさだ。細部まで精巧に作られている。足の毛とかリアルすぎて思わず顔をしかめたくなるほど。
んで、とりあえずそれを購入しておこう。
女の子の服の中とかに入れてビックリさせたい。
我ながら最低だとは思うが、そのくらいのスパイシーさは常に求められているとは思わないかねっ?
思われているだろう。間違いない。
間違いないことだ。
ピージーを手に取った。
あとは、傘だな。
当然のように傘が無いからな、傘も欲しい所だ。
「おじさーん。傘ないっすかー?」
「あるよー。こっちおいでー」
「はーい」
呼ばれたので、右手にピージーを持ったまま笠原父の待つカウンターへと向かった。
「ビニル傘しかないけど、これ」
緑っぽい色のビニル傘を手渡してきた。
「ありがとうございます」
「……で、他に何か買うのかい?」
そして俺は、満を持してピージーをカウンターに差し出した。
「これを……」
「!」
笠原父は驚きの表情をした後、
「ほう。これを、何に使うと言うのかね」
「悪戯に……」
俺は答える。
「ちなみに訊くが、ウチの娘を知っているかね」
「はあ、みどりさんですね。クラスで一緒です」
とはいえ、もうあのクラスには行く気はないが。
「まさかとは思うが、ウチの娘に使う気ではないだろうね……」
「断じて、そのような気はありません」
「ならば、良し。ええと、傘と、コレで、700円」
まぁ、そんなもんだろう。
「袋に入れるかい? このオモチャ」
「あ、いえ、そのままで良いです」
俺は品物を手に取った。
「そうかい」
「それでは……」
俺はそう言い残して店を後にする。
ガラッ。
「ありがとうございましたー」
ピシャン。
俺が店を出た時、急に雨が降ってきた。
やっぱり笠原商店に寄って正解だったぜ。