宮島利奈の章_3-4
数時間後、俺は書架の固定を完了した。
書架と床をL字器具で固定。書架の上に登り、平たい器具で書架と書架を固定。
「完璧だな……」
思わず呟くほどに。
抜群の耐震性を実現だぜ。
で、だ。俺は、利奈がポツンと座る椅子の前に立った。さっきと、読んでいる本が変わっている。完全に読書モードらしい。
やれやれだ。
俺は、散らかっている本を片付けようと拾い上げた。
その時、まるで結界が破られたかのように、小さく「あっ」と声を上げて、ようやく利奈が我に返ったようだった。
「おう、お目覚めか?」
利奈は、ばつが悪そうに頭をかきながら、
「あー。ごっめん。懐かしい本を見つけてしまって。したら、なんか止まらなくなっちゃって」
「まぁ、構わんけど」
「もしかして、全部やってくれたの?」
「ああ。そうだ」
「何も食べずに?」
「そりゃなぁ」
図書館にあった時計を見ると、午後四時半だった。昼飯も食わずに作業していたわけで、
「お腹空かない?」
そう訊かれれば即答で、「空いた」と言うしかない。
「ねぇ、ゴハン食べに行かない?」
「ん、おう」
「決まりねっ、美味しい中華料理のお店があるの」
「ほう。楽しみだな」
「行こっ」
図書館を出た。
そして、やって来たのはショッピングセンター。その中にある中華料理店に入った。
「いらっしゃいませー」
あきらかに愛想の無い店員の声。
真新しい内装に、香ばしい良い匂いが充満している。
ゴマ油の香り。
時間帯の問題もあるのかも知れんが、お客さんは少なかった。しかし利奈が美味しいと言っているので、期待していよう。
「こちらへどうぞー」
席に案内され、テーブル席に向かい合って座る。
「オススメはね、中華そばと、ギョーザ」
「要するに、ラーメン屋みたいなもんか」
「うん」
店員さんが、やって来る。
「ご注文、お決まりですかー」
「あたしは中華そばに味玉つきで」
「じゃあ、俺はチャーシューメンと餃子で」
「かしこまりましたー」
言って、店員さんは去っていった。
「チャーシューメン……それに餃子も? よく食べるわねぇ」
「結構な肉体労働だったからな。俺の体がエネルギーを欲しているのだ」
「ふぅん」
「要するに、豚肉バンザイというわけだ」
「わけわかんないわね」
「好きだからな」
「何が?」
「豚肉がな」
この会話の展開で豚肉以外を好きだと言う奴はいないだろ。
「死んだブタさんにも、家族があったろうに……」
「おい、利奈っち。やめてくれ」
何てこと言い出すんだ、こいつは。
「ブタさんは、どんな名前だったんだろうね」
「やめろ。そういうことばかり言われると、食えなくなってしまう」
「フフフ、どうよ、わたしの嫌がらせは」
「ああ、効いたぜ」
で、少し待って、店員さんがやってきた。
「チャーシューメン、おまたせしましたー」
「お、ありがとっす」
チャーシュー麺が目の前に置かれた。あっさり醤油ベースのようだった。
「どうして、このブタさんは死ななくちゃならなかったの。殺されて食べられるために生まれて来たの? そのブタさんは幸せだったの?」
「うわぁああ! やめろおお!」
「中華そば、おまたせしましたー」
そして、中華そばが、コトリと利奈の前に置かれる。
「し、しまった! わたしのラーメンにも二枚チャーシュー入ってた! うっかり! ごめん! ブタさんごめん!」
バカだろ、こいつ。
「餃子です」
と店員さん。コトリと目の前に餃子一皿を置いていく。
「あ、ありがとっす」
「以上でお揃い。ごゆっくりどうぞ」
店員さんは愛想なく言って去っていった。
「よし、それじゃ……」と俺が言って、それに利奈は、それに呼吸を合わせて、続けて言う。
「「いただきます」」
俺と利奈は、同時に割り箸をパキンと割った。