宮島利奈の章_3-3
一番奥に着いた。
そして、L字型の金具を取り付けていく。
太くて長い先の尖ったネジを電動ドライバーを使って、押し込んで木製の書架を固定する。
細かいことはわからんが、とにかく効果的に見える場所を固定する。
一つずつ、丁寧に。
書架一つで四箇所、書架の下を固定。
壁を背にしている書架は、書架の上に登って壁と書架を繋いで固定する。
倒れないように気をつけて登って、取り付けた後、飛び降りた。
で、集中して汗をかきながら書架を次々と固定していってL字器具が無くなった。
「あれ、何かおかしくないか」
俺は八割くらいの量のL字器具を持って来たはずだが、ここに利奈が居ないのはどういうことだ。
俺の五分の一のペースで作業を進めれば、この場所くらいまでは進めるはずだが。
あっ、もしかしたら、一つの書架に大量の器具を装着している可能性がある。
一個の書架をあまりにも厳重にしている可能性が!
百個くらい器具を着けたりしてたりして。
ネジを地面に埋めたりするアホな利奈ならやりかねないぜ。
で、歩いていくと、先刻利奈が倒した書架の前に着いた。
利奈はそこに居た。
倒した時に散らばった本の真ん中で、椅子に座って本を読んでいた。
「…………」
集中している。
「…………」
次々とページを捲る。速読というやつだろうか。
「…………」
器具もドライバーも投げ出して、ただ本を読んでやがる。つまり、俺が必死に汗かきながら器具を取り付けている間に、こいつは延々と読書に耽っていたというわけだ。
「おい、利奈っち」
「…………」
無視かい。
そりゃない、色んなことに、そりゃないぜと言いたい。
何でサボってんだ、とか、何無視してんだ、とか。
「…………」
しばらく、観察してみる。
それにしても良い姿勢だな。
すっと伸びた背筋。長い髪。ページを捲る、しなやかな指。目は静かに文字を追って動く。
なんか、本を読むために生まれてきた芸術作品みたいだ、と思った。
「まったく、仕方ないな……」
俺は、残りのL字器具とネジを手に取った。