宮島利奈の章_3-2
「ただいま!」
大きな工具箱を手に持って、走って戻ってきた。
図書館内は走っちゃダメとか誰か言ってなかったっけ。
まぁいいか。
「で、どうだった?」
「ネジね、ちょっと土汚れが」
こいつ、アホだろ。
「でも、あったんだろ?」
「うん。あ、そうだ。L字型以外の器具もあったんだけど、これはどう使うのかな」
利奈の手には、十五センチ定規みたいな平たい金具があった。
「これは、あれじゃないか。書架と書架を繋ぐんだろ。イメージとしては、手を繋いで強風の場所を進めば飛ばされにくいみたいな感じだ。それで信頼の耐震性を実現ってとこだろう」
「なるほどっ。そういうことでしたか」
「そういうことです」
「あ、そうだ。これ、ドライバーも必要っぽいから持って来た」
言って、工具箱から取り出したのは電動ドライバー。ワイヤレスで動くやつだ。
スイッチを入れると、ウィーンと回転音が響く。そして止まる。
うっとりしていた。
「いいっしょ?」
色っぽい声を出した。
変なヤツだな。
「あ、ああ、そうだな」
そして戸惑う俺に手渡した。
「じゃじゃん。もう一個あるから、渡しておくね」
「で、どうするんだ?」
「君は、L字で下を固定して。わたしが、本棚の上に登ってコッチの器具で繋ぐから」
曲がってない器具を持って、書架によじ登ろうとする宮島利奈。
えっと、いや、待てよ。
危険じゃないか?
下を固定してからじゃないと倒れるんじゃ……。
「おい、待て利奈っちー。危険じゃな――」
言い掛けた時にはもう、利奈は書架を登りかけていて、しかもその書架は倒れかけていた。
「あ……」
「ひぁああ!」
ばったーんと倒れた。軽率すぎだろう……。
俺は散らばった本の中、うつぶせに倒れた利奈に駆け寄る。
「大丈夫か?」
「大丈夫だけど……何でこんなことに……」
「ただでさえバランスの悪い書架を、器具で固定する前に上に登ろうとするからだろ」
俺は、のっそりと起き上がる利奈の手を引いて立ち上がらせる。
そんでもってすぐに、倒れた書架を元に戻した。
「うう……じゃあ、L字のを先にやろうか」
「おう、向こう側から七割くらいは俺がやってやる。残りの三割をこっち側から進めろ。先に三割終わってしまったら俺を呼べ」
「わかった」
彼女は頷いた。
その頷きを見て、大量のネジとL字器具の八割くらいを持って、図書館の奥の方に向かった。