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宮島利奈の章_2-3

「せいやぁあ!」


 俺は見事、倒れた本棚を持ち上げ、元の場所に立てた。


 ずずん、という音がする。


「おおお」


 一人分の歓声と共にパチパチと拍手の音が響く。


「よし、そして次は、本を元の場所に。だったな」


「うんうん」


 そして、俺は、本を並べ出す。


「そこ、違うっ!」


「え」


「本の位置。反対側の下から二段目」


「そ、そうか」


 俺は、言われた場所に本を置いた。


 そして、次の本を手に取る。近くの棚に置く。


「違う。それは一番上の段」


「届かないんだが」


 そう、書架は案外高くて、踏み台や梯子でも無くちゃ届かないくらいだった。


 利奈は言う。


「そう。じゃあ、うん、ちょっとしゃがんで」


「え? こうか?」


 俺は言われるままにしゃがんだ。


 すると、なんと、


「よいっしょ」


「!」


 肩や首に、何か重みを感じた。


 これは、もしかして。もしかして、あれじゃなかろうか。


 ふとももっ?


「足、持って」


 頭上から声がした。


 俺の頭に利奈の手が触れる。


 視界に入ってきた脚。


 俺は脚に腕を絡めた。


 つまり、これは……肩車!


「うん、いいよ、立ち上がって」


「は、はひっ」


 俺は緊張を隠せないながらも、立ち上がる。


 利奈を肩車。


 やべぇ、なんか、なんかよくわかんないけど、ドキドキする。


「本、ちょうだい」


「どうぞ」


 俺は下から、手渡す。


「ちょい右に移動お願い」


「は、はい」


「んん? 違うっしょ、そっち左っ」


「あ、左ですね」


「違う! 右だってば。頭悪いなもう」


「す、すみましぇん」


 ドギマギしていた。


「あ、次、その足元の」


「お、おう」


 俺はしゃがんで指差された本を拾おうとした。


 したのだが。


 ガツッと頭上で音がした。


「はぅっ!」


「うあ、ごめん……」


 俺が急に前のめりになったせいで、利奈は書架に頭をぶつけてしまったようだ。


「いったぁあああい!」


 足をばたつかせる。


「あ、おい、こら! 暴れるな――」


 次の瞬間俺はふらつき、そして、ずごんと隣の書架に激突し、ばったーんと本日二つ目の書架倒しを完了した。


 横たわる、俺と利奈。


「利奈っち、ごめん」


「わざとやったんでしょ!」


「いや、不注意だった、すまん。何しろ肩車をした経験なんて無いんでな。ていうか、その前にだな、利奈っち……こんなに簡単に書架が倒れて良いのか? 安全面に問題ありじゃないか? 図書館としてどうなの、それ」


「ごめん、普段、誰も来ないから、(おこた)ってた」


「だ、誰も来ないのか?」


「うん……」


 悲しそうに頷く利奈っち。


「で、お前、もしや毎日ここに来てる?」


「うん。図書委員だし」


「ずっと、一人ぼっちってことか?」


「うん……」


「寂しくない?」


「本、あるし」


「いや、まじっすか……」


 それはさすがに嘘だろう。


「愛してるから。本を」


 愛とは。何か不健全な子なのかな。世の中から完全に浮いてしまっているようにも思うぞ。とにかく普通じゃない。


「ていうか、肩車じゃなくて、踏み台を持ってくれば良かったじゃないか」


「でも、したら君、逃げる気だったっしょ?」


「人を疑い過ぎだ」


 すると利奈は、少しの沈黙の後、天井を仰いで、


「あー、なんか今日、ツイてない」


 それは、俺のセリフでもあるんだけどな。


「怪我してないよな、利奈っち」


「うん、平気」


「じゃ、ちょっとそこで待ってろ。踏み台を持ってくる」


「あ、うん……」


 で、踏み台を探して歩き、発見して戻ると、せっせと本を並べ直している利奈の姿があった。


「すごいな。本の場所、全部記憶してるのか?」


「んなわけないっしょ。天才か、わたしは」


「じゃあ、テキトーに並べてるのか? 図書委員として、良いのか、それで」


「あのねぇ、五十音順で並んでるんだからタイトル見ればだいたいの位置はわかるに決まってるでしょ」


「あ、そうか」


「本は良いから、君は本棚を戻して」


「お、おう」


 ずずんと音を立てて、書架は元の場所に戻った。


「さっすが男の子だね。力持ち」


「それほどでもないが」


 木製の軽い素材だし。


 でも、そうか。確かに利奈は痩せていて力なさそうだしな。


「その、すまんな……色々」


 俺は心から謝った。


「いいけど」


 言いながら、本を並べていく。


「さて、俺も本を並べ直すの手伝うぜ……」


「うん」





 そして、


「……よしっ、できた」


 俺が言うと、利奈は満足気に笑いながら、


「元通りだね」


「さて、じゃ、帰るとするか」


「待って」


「ん? まだ何かあるのか?」


 すると、利奈は言った。


「どうかな。君さえよければ、また来ても良いよ」


「あぁ……そうだな……考えておくよ。それじゃあな」


 俺は、手を振り、利奈に背を向ける。


 出口に向かって歩き出す。


「またねー!」


 背中に、利奈の声が届いた。


 もう、夕方になっていたので、寮に戻ってきた。図書館から寮までは、とても近くて、歩いて数分である。寮から学校までは二十分くらいかかるから、通いやすさが段違いだ。


「宮島利奈、か。変な女だったな」


 でも、明日も行ってみるか。




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