穂高緒里絵の章_Ending!
とある都会の街。とある病院に俺たちは居た。
大部屋の病室。その窓際の一角にあるベッドには華江さんが座っている。ばつが悪そうに、俺たちから目を逸らしながら。
華江さんのベッドの横には、椅子が二つあって、そこに俺とおりえが座っていた。
ちなみに、秀雄はどこに行ったかと言えば、「婿養子に行かす予定の家に預けた」と華江さんが言っていた。
で、今はそんなことよりも、華江さんの病気についてだ。
「た……ただの胃潰瘍だったぁ!?」
おりえは叫んだ。
「あっははは、しかも、ほぼ治ってるってさ」
「心配ごと、多かったんですね……」と俺。
「そりゃあんた、三億円の花瓶割られたら、ストレスも溜まるっての」
「心配したのに! 何それっ! ひどいオチ!」
「あっはは。ところで、緒里絵」
「何よぅ!」
「いくら掛かったんだい? レインボーロード計画とやらは」
「うーん、ちょっと耳かして」
「はいはい?」
おりえは、華江さんの耳元で金額を呟いた。
すると、華江さんの表情がみるみるうちに変化する。
「達矢さん! あんったがついていながら! 何でこんなことに!」
「な、何かマズかったっすか……」
「マズイも何も! 勝手にそんなに借金して! あたしの墓建てらんないじゃないの!」
「これで、死ねないね」
「何笑ってんだい、このアホ娘っ!」
平手でバシンと殴った。
「ウヒヒヒ」
「またっ! 何笑ってんの! 達矢さんも何か言っておやり」
「何言ってもムダです」
「っ……このっ――」
「それでも、今が一番幸せで、一秒先も一番幸せ」
「幸せそうにまとめようとしてんじゃないよ!」
「皆、大好きっ!」
「このバカーッ!」
「穂高さん! 病室ではお静かにお願いしますっ!」
ナースさんが叱る声が響いた。
「あぁ、すみません、ほら、あんたらも謝りな」
「申し訳ないです」と俺。
だが、元気になったおりえは、簡単に謝ったりなんかしないのだ。
「はにゃーん!」
おりえは病院内を駆け出した。
「あぁ、こら! 逃げるな、緒里絵ぇええ!」
「おりえっ」
俺は彼女を追いかける。
逃げた女の子は立ち止まり、猫みたいに「にゃあ」と小さく鳴いて、振り返り、とても幸せそうに涙をこぼした。心の底から安心したような笑顔を見て、俺も笑った。
――大好きな人がここにいる。
――今が一番幸せで、一秒先も一番幸せ。
【つづく】




