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穂高緒里絵の章_最終日-1

 起きて、朝食。


 その後すぐに花屋に行って、花屋の仕事を教わる。


 華江さんは、移動するのが大変だという理由で、ショッピングセンター内に泊まらせてもらっていた。少しでも安静にしなくてはいけないってのもあって、坂を登ったり下りたりするリスクを考慮して穂高家には帰らなかった。


 ばれちゃいけない計画が進行中だったから、好都合だ。


 おりえはレインボーロード計画を進めていて、避難勧告に応じるのを延期して町を染めていった。まつりや、志夏や、みどり、そして若山さんら、皆の力を借りて計画は進む。白かった風車や建物が極彩色で塗装されていく。黒っぽかったアスファルトも淡い色に染まる。町全体が染まっていき、もう少しでレインボーロードとやらが完成するらしい。


 で、俺はといえば、仕事を覚えるのに必死だった。


 花の種類を憶えたり、値段を憶えたり、包装の方法、花束を作るときの色のバランスについて、花を長持ちさせる裏技、何よりも笑顔の練習。


 時に叱られ、時に褒められ、失敗も何度もしながら、仕事を少しずつ覚えていく。


 そんな日々が、何日か続いて、華江さんが血を吐いて倒れた。


「大丈夫さ、たまに出ちゃうんだ」


 口元を高そうな和服の袖で拭いながら気丈(きじょう)に振舞う姿が、悲しかった。


 ショッピングセンター内にある医務室に運び込まれた。


 ベッドに仰向けに寝ていた華江さんは起き上がりながら言った。


「ところで、達矢さん。何か隠してないかい?」


 ぎくっとした。


「え? いえ、何も」


「そうかい。緒里絵が全然姿を見せないし、避難勧告が出てるってのに、なかなか避難に応じるって話も出ないし、何か、おかしいね」


 避難することは決定しているが、それはおりえの都合で延期されている。いや、穂高家の都合、と言うべきか。


「そんなことより、横になってて下さい。店番は俺がしますから」


「悪いねぇ……」


 囁くような小声で言った。申し訳無さそうに。


「華江さん」


「何だい」


「病院に、戻りませんか?」


 華江さんが病院に戻ってくれれば、俺もおりえの手伝いができる。


 それに、血を吐いたり、具合が悪くなった時のためにも、それなりの施設に入っているべきだ。何より、治ることを諦めてはいけないと思う。


「何言ってるんだい」


「華江さんの教え方がうまいから、だいたいの仕事のコツは掴めたつもりです」


「バカねぇ、まだまだだよ」


「でも、作業の流れもわかるし、基本はできてます。そうでしょう?」


「まぁ、そうねぇ……」


「あとは、ベッドの上からでも教わることが、できると思うんですよ」


「…………今、病院に戻ったら、緒里絵に疑われないかねぇ」


「でも、おりえは店にも来てないじゃないですか。学校に行ってるって言ってましたけど」


 実は、もう避難準備は始まっていて、学校は休校になっているので、おりえは毎日、風車にペンキを塗っている。若山さんが手配して町の外から持って来たハシゴ車を使って、これまた若山さんが調達してきた大量のペンキでもって色を塗っているのだ。


 ひたすら、カラフルに。


 まつりや志夏の号令で、多くの人がレインボーロード計画に参加してくれたので、町中の建物の多くもカラフルに染まった。


 白い住宅街は、もうド派手。


 白い学校も、間もなく派手に変貌する予定だ。


「検査があるって言えば、多分バレませんよ。おりえのニブさは、華江さんもよく知ってるでしょ?」


「そうかねぇ。意外とあの子、たまに鋭いから……」


「お願いしますよ。治す努力くらい、してください」


「仕方ないねぇ……達矢さんが……そう言うなら」


「ありがとうございます!」


「病院って、苦手なんだけどねぇ……」


「病院得意な人って、あんまり居ないんじゃないっすかね」


「確かに」


 笑いながら言った。


「行きましょう」


「そうだねぇ……」


 こうして、華江さんは、再び入院することになった。


 おりえやみんなの作業がバレないように、夜のうちに俺が背負って病院に運んだ。


 そこらじゅうペンキのニオイにまみれていたから、もしかしたらバレたかなとも思ったが、病気で弱っていることが関係あるのだろうか、五感が鈍っているようで、特にバレた様子もなかった。


 華江さんは、避難するまでの間だけ、この町の病院にいることになるけど、避難してこの町を出たら大きな病院に入ることになるだろう。


 とにかく、これで俺も、おりえの手伝いができる。


 この町を染め上げるという、突飛で素敵な計画の手伝いを。




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