穂高緒里絵の章_4-4
夜になった。
寮の部屋。窓の外はしとしとと雨が降り続いている。
そんな中、俺は夕飯も食わずに布団の中で、悩んでいた。
「うにゅぅ、何だこの展開は、うにゅぅ」
思わずおりえっぽい声も出る。
華江さんが深刻な病気で……おりえをよろしくって頼まれて……。
そもそもプチ不良で、この町に来てしまった俺が、誰かと結婚するなんて想像できないんだ。
今、おりえと結婚することになったとして、おりえの気持ちはどうなる。
昼間チョロっと「結婚してもいい」みたいなことを口走ってた気もしたが、それはおりえらしい、考えなしのフワフワした発言だろう。
考えることを放棄して、選択権を他人に委ねて。そういう、他人への依存度の高いヤツなんだと思う。それは、何回か会ってみてわかった。だから、結婚しても良いなんて、本心で言っているわけじゃないと思う。心の底から言っていたのだとしても「結婚してもいい」じゃダメなんだ。おりえが「結婚したい」と思う相手じゃないとダメだ。そうじゃないと、おりえがダメになってしまうんじゃないかって、こわい。
すぐに思考を放棄して、他人に自分の運命を委ねてしまって、それを「愛」とか言い張って。自己主張が強いようでいて、自分が無くて。何でも他人のせいにして……。そして時々「仕方ない」で済ませようとする。何が何でも責任からは逃避する。
簡単に言えば、おりえは子供なんだと思う。
だったら俺が守ってやれば良い……とか思っている部分も俺の中にあるけれど、現実問題、考えれば考えるほどにそれは困難なことだ。
俺だって、こんな町に送られて来てしまうくらいに自分のことで精一杯だし、体験も経験も足りなくて、働いているわけでもない。誰かの運命を背負うには、あまりにも幼い。
大人になって、現実的な選択ができるようになった時、おりえは俺を選ぶだろうか。今、結婚して、その選択を後々になって悔やんだりしないだろうか。そして、別れて再出発した時には、バツイチになっていて、再婚相手の選択が狭まっている、なんてことになって……。
これから先、どうなるかなんてわからない。
でも、少しでも恵まれた場所に立っていて欲しい。
俺がおりえに対して求めるのは、笑顔で、いつも笑顔で、朗らかに笑っていられる場所にいつも居て欲しいということ。穂高緒里絵が、ずっと好きな人と一緒にいられるように。
「そしてその相手は……きっと、俺じゃない」
自信が無い。
俺は目を閉じ、眠りに就いた。