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幕間_07_花瓶を持って走る少女

 町の南にあるショッピングセンター。その二階。建物の端っこにあるイベントスペースでは、撤収作業が行われていた。何か町の大事なものを無料で展示していたようだ。


「気をつけな。家に帰ったら、ガラスケースがあるから、その中に入れときな。わかったね」


 着物装備の、年の割には若く見える女性は、そう言った。


「うむにゅん」


 と頷いた娘は、顔より大きな花瓶を抱えて、歩いていく。


 母は、ふらふらと揺れながら歩く制服姿の小さな背中を見つめながら、こう呟く。


「大丈夫かねぇ」


 心配そうだった。


 背の小さな女の子は、母親の目の届かない場所に来たと自覚すると、あろうことか調子に乗ってトテテと走り出した。大事で高価なものを持っているにもかかわらず、だ。


 やがて思い立って、はたと立ち止まる。


「そうだ、トイレ寄っていくにゃん」


 再びジョギングを始めた。


 さほど尿意やら便意をおぼえているわけでもなかったし、自宅のある商店街のはずれまで時間がかかるわけでもない。それでも、数年前、家に帰る途中の道路上でうっかり漏らした経験があるためか、彼女はトイレに寄ることにした。


 花瓶を手に、走る。


 とてててっと走る。


 時々ぐらりとふらつく。


 危ない。


 何とか姿勢をもちなおし、そのスリルにドキドキした顔で、なんだかすごい楽しそう。


 そして、少女は、ふらふらとした軌道で走りながら、前方に女子トイレを確認する。


 ふらふら、ふらふら、とてててて。


 走る。走る。走――。


 誰かにぶつかって、花瓶はショッピングセンターの通路に舞い上がった。




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