柳瀬那美音の章_4-5
で、なんか雨が降っていたとはいえ珍しく風が弱かったんで、雷雨の中を傘差して歩き、笠原商店の前に立った。
引き戸を開けると、新聞を広げながら店番をしている中年の男の姿があった。みどりの父親のようで、みどりは店内に居ないようだった。
「いらっしゃい……」
「こんにちはー」
とりあえず挨拶を交わし、、店内を物色してみると、面白いものを見つけた。
いや、まぁ大したものではない。
ただのイタズラ道具だ。
プラスチック製のゴキ○リ。略して「ピージー」
Plastic Goki**ri
頭文字を取って、「ピージー」と呼ぼう。
隠語略語にすれば、おぞましさも半減するというものだ。そして、ゴ○ブリのくせにおぞましくないということは、それはもうゴキ○リではない。
ピージー。あくまでピージーである。
にしても……細かく描写する気も失せるほどにモザイク必至のリアルさだ。
細部まで精巧に作られている。足の毛とかリアルすぎて思わず顔をしかめたくなるほど。
んで、とりあえずそれを購入しておこう。
那美音さんの服の中とかに入れてビックリさせたい。
我ながら最低だとは思うが、そのくらいのスパイシーさは常に求められているとは思わないかねっ?
思われているだろう。間違いない。
間違いないことだ。おねーさんをキャーキャー言わせたいというのは、男として当然の感情。
ピージーを手に取った。
あとは……那美音のメロンパンを大量に。それからお茶だな。
メロンパンとお茶を抱えて、右手の中にピージーを持ったまま笠原父の待つカウンターへと向かった。
「お会計かい?」
「はい。お願いします。えっと、メロンパンと、お茶と…………」
抱えていた大量のメロンパンとお茶を置いた。
そして俺は、満を持してピージーをカウンターに差し出した。
「これを……」
「!」
笠原父は驚いた表情の後に、
「ほう……これを、何に使うと言うのかね」
低く、渋い声でそう言った。
「悪戯に……」
俺は答える。
「ちなみに訊くが、ウチの娘を知っているかね」
「はあ、みどりさんですね。クラスで一緒です」
「まさかとは思うが、ウチの娘に使う気ではないだろうね……」
「断じて、そのような気はありません」
どうだろうな。
チャンスがあればみどりちゃんの背中にでも入れちゃおうかな。
まぁ、今は那美音に悪戯する気でいっぱいだけども!
我ながら、我ながら極悪である。
「ならば、良し。ええと、お茶と、メロンパンと、コレで、3700円」
まぁ、そんなもんだろう。
結構買い込んだからな。
「袋に入れるかい?」
「あ、お願いします」
俺は紙袋に入った品物を手に取った。
「まいど」
「それでは」
俺はそう言い残して店を後にする。
ガラッ。
「ありがとうございましたー」
ピシャン。
ふふふ、プラスチックゴキブリを前に、どんな反応を示すだろうか。楽しみだぜ。
しかし、ちょい買いすぎたかな。重い。