幕間_06_紫色の女を見た
畳の上。とある寮の中、二段ベッドのある一室で。
不良B「聞いてくれ、皆。実は俺は昨日、紫色の人間を見たんだ。ああいや、紫色の髪の毛をしたご老体では無えぞ。いや、肌が紫色の不思議生物でもない。いや、紫色の頭をした不良でもねえ。そんな奴が居たとしても、別に気にするもんでもないからな」
不良C「まぁな、この町は『かざぐるまシティ』という俗称もあるくらいにゴミ捨て場だからな、そんな不良が居たって気にするものでもない」
不良B「ああそうさ。何が問題だったかと言うとだな」
不良D「何なんだよ。早く言えよ」
不良B「まぁそう焦るな。言うから。で、要するにだ、美人さんだ」
不良D「び、びじんさんだと? 巨乳だったか?」
不良B「いや胸はそんなに気にして見てないが、けっこう大きかったぜ。とにかく、ここが腐った生ゴミ埋め立て地であるにも関わらず、紫色の服を着た美人さんが居たんだ。あれくらいの美人になると絶対に性格もグッドに違いない」
不良C「なるほどなぁ、お前がいい女っつうくらいだから、相当なんだろうな」
不良D「待てよ。こっちはBの趣味とかわかんねぇぞ。Bがどんな女が好きなんだかわかんねぇと想像できねぇよ」
不良B「そうだなぁ、顔で言えば、まぁ商店街にある花屋の女とかもオトナオーラ全開だけどたまに日本刀振り回して暴れてるなんて噂を耳にしたこともあるし、風紀委員のクソ女も将来は美しくなる可能性を秘めているけど性格クソだから憎しみすら湧いてくるな。顔はいいけど。あれ、そう考えると、意外とそこそこ美人率あんのかな、この町も。いやまぁあの二人は性格が美人と程遠いから失格だ。性格で言うなら、みどりちゃんなんてのはタイプだぜ」
不良D「みどり? 誰だそれ」
不良C「ほら、笠原商店の」
不良D「お前、あんなのが好みなのか」
不良B「あんなのって言い方何なんだよ」
不良D「アァっ?」
不良B「ハァッ!?」
不良C「おいおい、お前ら落ち着けって。それで、紫色の美人の話が気になるから話してくれ」
不良B「ああ、そうだな。紫色の服着たすげー美人がな、あんまりにも美人だったんでな」
不良C「声をかけたのか」
不良B「いや、なんか深刻そうな顔してたからずっと眺めてたってそんだけだぞ」
不良D「おいおい、単なるヘタレじゃねぇか」
不良B「は? ヘタレとかって何言ってんの? こちとら花を愛でたいタイプの紳士なんだよ。それに、なんかどっかで見たことあるなって思って、考え込んでたら居なくなってて……」
不良D「気持ちわりい、ストーカーかよ。声もかけずに見てるなんて」
不良B「何だとコラァ、バイクも無いのに暴走野郎気取りやがって」
不良D「やんのかオラァ、この軽薄金髪猿がぁ」
不良C「顔近付けすぎだからな、ほらな、離れろ、な」
不良B「チッ」
不良D「ペッ」
不良C「てめぇ部屋ん中で唾吐くんじゃねぇ!」
ボゴォ!
不良D「やりやがったな、モヒカンコラァ!」
ドタドタ、バタタ。
不良B「うぉおお、くらえぇ!」
不良C「あやまれよオラぁ! てめぇで出した唾ふけ!」
不良D「うるせぇな、こまけーんだよ!」
不良C「てめー、今日という今日は許さん!」
不良B「くたばれえ!」
不良D「いくぞぉ、必殺奥義!」
不良A「――やめんかぁ! うるさいぞ! 人が寝とる横で!」
バゴォン!(ベッドの柵が爆ぜる)
不良ども「「「す、すすす、すいませんでしたAさん!」」」