浜中紗夜子の章_8-2
上井草まつりと勝負、か。安請け合いしてしまったが、どうすれば紗夜子の望んでいる「勝負」とやらが実現できるのか。その方策がわからん。
「うーむ……」
唸りながら無人の廊下をうろうろしていると、
「あら、何か悩み事? 達矢くん」
前方に級長にして生徒会長の志夏が現れた。
「おう、志夏。おはよう」
「おはよう。どうしたの? もう学校は休校になったのに制服なんて着ちゃって」
何か、すごい単語が引っかかったぞ今。目の前の志夏は今、「休校」とか言ったか?
「休校? 何で?」
俺が目を丸くして訊くと、逆に志夏が目を丸くして、
「知らないの?」
何を言ってるんだ、志夏は。
「何なんだ一体」
「この町の南で不発弾が発見されたっていう理由で、避難勧告が出たから、避難のために今日から休校なんだけど」
「え? ってことは、もう避難しはじめてる人がいるってことか!」
「そうだけど」
「まつりは? まつりはもう避難しちまったか?」
俺は、志夏の両肩を掴んで訊いた。
まつりが居なくちゃ話にならない。紗夜子の努力が全部、無意味なものになっちまう!
「上井草さんは、一番最後の避難になるから、明日避難の予定だけど」
「そ、そうか、よかった」
俺は志夏の肩から手を離した。
まつりがまだ残っているのなら安心だ。
にしても、そうか。それで紗夜子はあんなに焦って、まつりと勝負しようとしてたわけか……。
「上井草さんに何か用があるの?」
「いや……実はな、紗夜子が勝負を挑もうとしてるんだが」
「え? あの浜中さんが?」
「ああ、あの腐ってた浜中紗夜子が」
「そっか……」
複雑な表情で呟く志夏。
「で、俺がその勝負の申し込みをしてやる、と約束してしまったんだが、どうすりゃ良いんだか考えるほどに分からなくてな……」
「なるほどね」
「何か良い方法は無いか?」
「良い方法も何も、正面から勝負を申し込むのが手っ取り早いと思うわ。上井草さんは、勝負を断ったりはしないから」
「そうなのか」
「ただ……」
「ただ?」
「今回は特別ね。浜中さんの名前は、出さない方が良いわ」
「そりゃまたどうして……」
「浜中さんとだけは、勝負したがらないかもしれないから……だから、達矢くんと勝負するって形で呼び出すのが確実かも」
「なるほど」
「よかったらセッティング手伝うけど、どうする?」
「本当か? そりゃ助かる。お願いしよう」
「わかった。それじゃあ、えっと、そうね、理科室の前で待っていて」
「オッケー」