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浜中紗夜子の章_7-4

 夕焼けのグラウンド。


「なぁ、紗夜子……もう良いんじゃないか?」


 気付けば、陽は沈みかけていた。


「やだ。まだ投げる!」


 お前は俺の左手を殺す気か。お前のマンガ速球のおかげでもう俺の手の平は感覚の消滅を果たしたんだぞ。


「ほら、お前は今日寝てないだろ? お前バカだから絶対ぶっ倒れるまで投げ続けるだろうが」


「それは……まぁ……」


 身に覚えがあるらしい。


「ほら、理科室に戻るぞ。適度に運動して適度に休むんだ。当り前の事だろ。お前は何でも極端すぎるんだよ」


「うゅぅ……」


 変な声を出してきた。


「お、俺はそんな萌えボイスになんかだまされないぞ! いいから帰るんだ」


 でも、すっごい不満そう。


「ええい! 実力行使っ!」


 俺は、紗夜子を無理矢理小脇に抱えて駆け出した。


「あ、いや、いやぁああ」


 グラウンドから離れたくないらしく、嫌がる紗夜子。


 一日で変貌しすぎだろう、こいつ。急にやる気に満ち溢れおって。


 紗夜子を片腕に持ったまま靴を脱いで廊下へ。


「はーなーしーてー」


「ダメだ。放すものか!」


 靴の回収は後回しで、とりあえず理科室まで駆ける。


 そして、理科室の扉を開けて、中に入り、紗夜子をベッドに放り投げた。


「たっちー」


「寝ろ!」


「汗かいたから、お風呂入る」


「わかった。行って来い」


「うん」


 紗夜子は返事すると、立ち上がり、理科室を出ようとする。


「待て」


 俺は当然呼び止める。


「な、なんだい、たっちー」


「風呂に行くのに、どうしてグローブとボールが必要なのかな」


「……えーと、少しでも、手放したくないから」


「風呂に行くのに、どうして着替えも持たずに行くんだ?」


 ダッ!

 紗夜子は駆け出した。


「あ、おいこらぁあ!」


 全力疾走。俺は駆ける紗夜子の首根っこを何とか捕まえて、理科室に引きずり戻した後、グローブとボールを没収した。


「ひどい」


 ひどいじゃねえよ。


「お前は、本っ当に不器用な奴だな」


「だって……」


 あまりに聞き分けがないので説教してやることにする。


「いいか紗夜子。茹でてないパスタは美味しくないだろ」


「何が言いたいんだかわかんない」


「これから良いことを言うんだよ」


「何よぅ……」


「いいか、紗夜子。現代日本のスパゲッティの基本はアルデンテだろう! 少しは社会に茹でられろ。お前はどこに出したって恥ずかしくない変な奴だ。変な奴だが能力はある。ああして速い球投げられるし、料理も上手だし、勉強だってできる。だが茹でる前のパスタはすぐに折れてしまうだろうが。ある程度、『普通』という名の熱湯に茹でられて柔軟性を身に付けないと美味しくなれないぞ! いいか、お前ほどの変な奴は、集団の中に入っていったって嫌でも目立つんだから、お前は最高に美味いもんになれるんだからな。そして俺は冷製カッペリーニより熱々スパゲッティの方が好きなんだ。アルデンテスパゲッティのようにしなやかで健康的になれ!」


「意味がわからない」


 一蹴されたぞ。頑張って喋ったのに。


「あと長い。何が言いたい?」


「要するに、とにかく今日はもう眠れということだ」


 俺が言うと、


「わかった。お風呂入ってくる」


 そして紗夜子は、少しボロくなってしまったグローブとボールを置き、しぶしぶといった様子で着替えを持って理科室を後にした。


 扉が開いて閉じられた。


「つーか、腹減った」


 でも、それ以上に疲れたな。


 とりあえず紗夜子が戻ってくるまでゆっくりするか。


 そう思い、ソファに横になった時、俺の意識は(かす)み、靴を回収するのも忘れて、眠りに落ちた。




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