浜中紗夜子の章_6-1
朝起きて、紗夜子に挨拶をして、シャワーを浴びて、朝ごはんを食べる。
今はその朝食の最中だ。
相変わらず朝食は美味しい。
パスタ一皿だけしか出ないので、栄養バランス的にはもう少し改善の余地があるが。
ふと、ベッドのそばに金属バットがあるのが目に入った。
何故?
「紗夜子」
「ん、何? たっちー」
「あの金属バットは何だ」
野球でもしようというのか。
「護身用」
なるほど。野球でもしようってのかと思ったが、護身用なら納得――いや、待て。納得するところではないぞ。これは俺に信用がないということではないか。
「紗夜子、お前、俺ほどの紳士を疑ってるのか?」
「いや、たっちーが誰かに襲われた時に守ってあげるには武器が必要なこともあるかなって思って」
どういうことだい。
「外へ出て野球しようということではないのか。ようやく外に行く気になったのかと思ったが」
「野球、大嫌い」
「そうなのか」
「あと、すぐ外出ろっていうたっちーは、もっと嫌い」
「ああぁ、嫌わないでくれ」
「そんなことより、ごはん冷めるよ?」
「おう、そうだな」
俺はスパゲティをフォークでくるくる巻いた。
「そういやさ、昨日な」
「何?」
紗夜子はスパゲティを巻いて持ち上げながら訊き返してくる。
「上井草まつりって女が……」
その名前を出した瞬間、ピタリと紗夜子の手が止まる。
「…………」
「どうした?」
「何でもない」
「そうか。で、その女がやって来てな、体育館裏でシメられそうになったよ」
「ふーん」
手を空中で止めたまま、興味無さそうに言った。
「お前とまつりって、何なの?」
すると紗夜子は冷たく言い放つ。
「たっちーには関係ないよ」
「まぁ、そうだな」
関係ないと言えなくもない。でも、関係なくないとも言い切れないとも思う。何せ「殺すぞ」なんて言われちまったからな。
「ところで、たっちー。晩ごはんどうする? わたしが寝ちゃうから作って冷蔵庫に置いとこうと思うんだけど」
飯の話で釣って話題を逸らそうとしてきた。
「紗夜子の手作りで出来たてのものなら何でもいいぞ」
「……たたき出すよ?」
おこられてしまった。
まぁ、手作りで出来たてっていう条件だと、寝ずに起きてろって意味になるからな。紗夜子的には嫌なんだろう。
俺としても、寮には帰れないし野宿は嫌だからな。家主の意見には従わざるをえない。理科室に勝手に住んでる奴が家主として君臨するのも謎だが……。
とにかく俺は謝る事にした。
「ごめん」