浜中紗夜子の章_5-1
目覚めると、紗夜子が寝ていたベッドが目に入った。
そこに紗夜子の姿は無かった。
「あ、起こしちゃった?」
声のした方に顔を向けると、紗夜子は制服姿で廊下へ続く戸の前に立っていた。
「おう、おはよう」
「おはよ。わたし、シャワー浴びて来るね」
「どこにあるんだ。シャワーなんて」
「一階の片隅に」
「そうか、行ってらっしゃい」
後で俺も行こうかな。と思った。
ガラリ、ピシャンと紗夜子が出て行く音がした。
「ふぁ……あ」
それを確認して、俺が天井に手を伸ばしつつ欠伸した時、
コンコン。
ノックの音がした。
紗夜子だろうか。
「紗夜子ー忘れ物かー?」
言いながらガラッと戸を開けると、そこに居たのは紗夜子じゃなかった。思えば、ここはあいつの家なんだから、紗夜子だったらノックなんかしないで普通に開けるよな。
「…………」
無言で、俺をにらみつける、女。どっかで見たことあるような。長身で、目つき鋭くて、胸小さくて、長袖制服の両腕に紺色の三本ラインが入ってるような。
「あ、え、えっと、誰だっけ?」
「殺すぞっ!」
いきなり何てこと言うんだ、こいつ。
「ええと……」
腕組みをしながら、威圧的に俺をにらみつける。
その視線を浴びているうちに、俺は彼女のことを、思い出した。
こいつは確か、初日に俺を職員室前で撥ね飛ばした女だ。上井草まつりとかいう名前だったか。風紀委員で要注意人物の。
「な、何か、用っすか。紗夜子なら、今いないですけど」
「浜中紗夜子じゃなくて、キミに用があるんだ。ちょっと顔かしな」
言って、クイッとあごを動かした。
やべぇ、シメられる。
「ついてこい」
「はい……」
俺は言って、まつりの引き締まった背中を見つつ怯えながらも、ついていった。
逃げたら殺される、と俺の本能も言っていた。