浜中紗夜子の章_4-6
数時間後。
暗くなった部屋でソファに寝転がって雨粒の音を聴きながら、色んなことを考えていた。
これまでのこと、これからのこと。
思い浮かべる多くのことが紗夜子のことだった。
と、その時――
コンコンコンコンとノックの音。
「達矢くーん。いるー?」
志夏の声だった。
俺は、戸を開ける。
「あ、起きてた。電気点いてないからもう寝てるのかと思った」
「ん、まぁ紗夜子の眠りを妨げるわけにはいかないからな」
「そう、優しいのね」
「ああ、優しいんだ、俺は。それで、どうかしたか?」
「お弁当、食べた?」
「あ、弁当箱な。ちょっと待ってろ」
俺は、テーブルの上に置いてあった弁当箱を取って来て手渡した。
「ちゃんと洗っておいたぜ。そして、こんな弁当を食わされるのは二度とゴメンだ」
「やっぱダメよね」
「こんな不味い弁当を食ったのは生まれて初めてだった」
「ごめんね」
軽い調子で謝ってきた。いたずらっぽく笑いながら。
「よし、許そう」
志夏が作った弁当ではないって言ってたし。
「それで、あとはコレね」
言って、大量の畳まれた洗濯物を差し出して来た。
「おう、サンキュ……」
大量の書類を運ぶようにして受け取る。
「あとコレ。商店街のパン屋で買って来たカツサンド。夕飯にでもして」
言って、袋に入ったそれを俺が抱える洗濯物の上に置いた。
「ありがたい……」
「それから、最後に、浜中さんに伝言いいかしら?」
「おう」
「『冷蔵庫の中身、補充しておいたわよ』って言っておいてね」
「ああ、任せておけ。メモっておく」
「そう、よろしくね」
「色々、ありがとな」
「ううん。いいよ。気にしないで。生徒会長だし。あと達矢くんも、たまには教室に来なよ。皆待ってるよ」
嘘だろ。誰も俺が来るの待ってる奴なんていないだろうが。
「まぁ、気が向いたらな」
俺はそう言った。
「よしっ、それじゃあ、またね」
「おう」
志夏の手が、ピシャリと引き戸を閉めた。
志夏が帰った後、俺は部屋の空いているテーブルに志夏が洗ってくれた洗剤の良い匂いのする服たちを置き、カツサンドを食べた後、歯を磨いた。
そして、ソファに寝転がっていた。
志夏の伝言と共に、『今日、泊めてくれ』という俺の伝言も書いておいた。
これから紗夜子が目覚めるんだろうが、俺はとりあえずこのソファで眠ることにしよう。
これから、どうなるんだろうな、俺。
先行きが不安で仕方ないぜ。
目を閉じた。