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紅野明日香の章_2-4

 さて、所変わって、教室。


 級長は教室前で「がんばってね」という言葉を残して廊下を颯爽と歩き去って行った。朝のホームルームの前に職員室に寄る用事があるんだそうだ。


 さて、級長のことは置いておいてだ。


 俺の目下の目的はというと、「いかに負け犬になるか」ということなわけで。どういうことかといえば、上井草まつりと対等だと周囲に思われているらしく、それはつまり、とんでもない不良だと思われていることと同じだというのだ。


 あるいは、俺が上井草まつりに目を付けられているという事実だけで、俺に近付くことはすなわち風紀委員と敵対するに等しいということかもしれない。


 いずれにせよ、上井草まつりという女子に、ボロボロに負かされることで、寮生やクラスメイトとの距離が限りなく小さくなるという計算式が成り立つ。


 だが待て。


 女子にボロボロに負かされる?


 そんなものを俺のプライドが許すとでも?


 確かに昨日は面倒だからヘコヘコと頭を下げた。しかしながら、それは争うのが面倒だったからであって、心から屈したわけではない。


 そもそも、俺のお気に入りの靴を、こともあろうに焼却炉に投げ入れた女だぞ。女子に暴力ダメ・ゼッタイの旗印を掲げたがる俺ではあるが、上井草まつりという女子に対する憎しみに似た感情は既に鍋を焦がすレベルで煮えている。


 だいたい、上井草まつりが、番長として君臨してさえいなければ、俺がクラスメイトや同じ寮の皆から避けられることもなかったんだ。


 そう、それが憎い。ならば、そうだ。答えは出ているじゃないか。上井草まつりを今の地位から引きずり降ろせば良い。


 フフフ。我ながら名案だぜ。


 と、その時だった。


「ね、ねぇ。何か、怒ってる?」


 窓際の席の椅子を引きながら、挨拶もせずに紅野明日香は訊いてきた。どうやら思考が顔に出てしまっていたようだ。


「あ、よう、おはよう。紅野」


 挨拶。


「う、うん。おはよ」


「怒り……そう、怒りに近い何かがそこにはあった。しかし、それはもう、崇高なる目的に向かう熱き情熱となりて――」


「日本語しゃべってよ」


「日本語だろうが」


「要するに何なの?」


「このクラスで幅を利かす、風紀委員が気に入らない」


「上井草まつりのことね」


「そうだ。ハデスだ」


「あ、そういや達矢、昨日靴焼かれてたもんね。仕返しするの? 手伝うよ?」


「仕返し……そうか、仕返しか。だがお前も知ってる通り、俺は頭が悪い」


「そうなの? 悪いの?」


「ああ。悪いんだ。そこで、仕返しの方法を一緒に考えてくれまいか」


「ふふっ、そんなのお安い御用――」


 ばしんっ。


 不意に音がして、俺の座っている机が揺れた。


 前を向くと、視界いっぱいに風紀委員の顔。


 超にらんでいた。


 修羅のごとき瞳で。


「転校生二人で何の相談かしら? ぜーんぶ丸ぎこえだったんだけど。共謀罪でしょっぴくわよ?」


「そうか。聞かれていたか。ならば、話は早い」


「何よ」


「風紀委員は、何をされるのが一番嫌がる?」


 俺は、風紀委員にそう訊いた。


「それを、あたしに訊くの? 馬鹿?」


「あいにく、俺は遠回りや隠し事や変化球が苦手でな」


 実は苦手じゃないけどな。


「あら、奇遇ね、あたしもそうよ」と、まつり。


「あ、私も私もー」


 紅野明日香は割とオールマイティに打ち返すと思う。何となく。


「どう? ここは、転校生とあたし、どちらが上位の存在なのか、さっさとハッキリさせたくない?」


「暴力以外でなら、構わんぞ」


 すると上井草まつりは、


「ならば……」


「ならば?」


「野球で勝負!」


 上井草まつりはそう言って、俺をまっすぐ指差した。


 えっと、野球?



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