浜中紗夜子の章_3-2
廊下で待つこと三分。
ガラッと扉が開いて、制服姿になった紗夜子が姿を現した。
「よう、カッペリーニではないか」
紗夜子が嫌がっていたあだ名で呼んでみた。
「やめてって言ったでしょ」
少しだけ顔をしかめて憤りを表現してきた。
「はい、どうぞ」
言って、俺を部屋に招きいれ、キッチン化している理科準備室へと消えた。朝食を用意する気なのだろう。
俺が寝泊りしている学生寮には「朝食は必ず食べなくてはならない」という絶対のルールがあるので、今朝も朝食は食べてきた。
故にお腹は減っていない。
「昨日のメモ見たかー?」
俺は、理科室の中から準備室に居て姿の見えない紗夜子に話しかける。
「見たけどー」
声だけ返って来た。
俺は頷き、大きめの声で会話する。
「何時に起きたんだー?」
「さっきー」
「あぁ、そういえば、朝ごはんは俺の分はいらないぞー」
「なっ……」
「作っちまったかー?」
「大丈夫、作ろうとしてただけだから、言ってくれて助かったー」
「おー、すまんなー」
「いいえー」
「今日のメニューは何だー?」
「カルボナーラー」
「おおうっ、朝からか」
「んー、別に起きたばっかりってわけでもないしー」
ああ、そうか。やはり紗夜子は生活習慣がメチャクチャなのか。
「何時に起きたんだー?」
「夜中ー」
だから、何時なんだ……。
「そうかー」
どうやら時間の感覚に興味が薄いらしかった。
「たっちーはー?」
「俺は五時起きだー」
「今何時ー?」
「七時半くらいだー」
遅刻するかしないかの境の時間は八時半。その一時間前だ。
「そんな時間にもう学校来てるなんて、優等生だねー」
「その通りだー。だが、お前には負けるなー」
「たしかにー」
何だか楽しかった。